パンデミックを契機に、企業の間でDXは時代を“早送り”したかのようなスピード感で浸透した。一方、それはあくまで効率化やコスト削減のためのデジタル化で、本質的な業務改革にまでつながっているケースは少ないとの見方もある。果たして、DXで真のトランスフォーメーションを進めるにはどうすればいいのか。そして、電通デジタルはいかなる手法と技術を用いて、クライアント企業のDXを確たる事業成長につなげようとしているのか。国内最大級のデジタルマーケティングカンパニー・電通デジタルの新社長に2023年1月に就任した瀧本恒氏に聞いた。

まずは経営者の意識を変えることが肝になる

――日本のDXの現状をどう捉えていますか。

瀧本 恒/電通デジタル 代表取締役社長執行役員

1992年 リクルート入社。2000年 電通入社。東京本社インターネット・ビジネス局部長、電通デジタル執行役員副社長などを経て、2020年より電通関西支社のデジタルイノベーション局長やデジタルビジネスセンター長として、電通グループ全百数十社のデジタル化を推進。2023年1月より現職。

瀧本恒氏(以下敬称略) 進んでいる企業と遅れている企業の格差が広がっていると感じます。業務の効率化やコスト削減など、いわゆる改善のDXに関しては、かなり進められつつある。一方、業務改革を起こして持続的な事業成長につなげるDXの方は難易度が高く、なかなか進められていない企業が多いように見受けられます。

「IMD世界デジタル競争力ランキング2022」でも、日本は4年連続で順位を落とし、63カ国中29位でした。日本はデジタル活用の面で、後進国になりつつあるとも言えます。だからこそ、その部分での潜在ニーズは高く、DXによる事業成長の伸びしろは大きいと捉えています。

――日本のデジタル競争力の低下には、どんな要因がありますか。

瀧本 まず人材育成や教育の面で改善の余地がありますし、経営者のデジタルに対する理解やリテラシーが高い企業もあれば、これからの企業もあります。DXを事業成長に直結させるには、まずは経営者の意識を変えることが肝になります。

――そうした事業成長に直結するDXを、御社はどのように実現していきますか。

瀧本 当社には、さまざまな専門領域があります。例えば、デジタル広告を中心としたメディアコミュニケーション領域や、顧客体験を設計し事業変革を支援するトランスフォーメーション領域、ITプラットフォームの設計・構築といったテクノロジー活用を基点にDXを支援するテクノロジートランスフォーメーション領域、さらにはAI開発なども担うクリエイティブ領域などです。各領域の専門性をより高めつつ、お客さまのニーズに合わせて領域をしなやかに横断したり結合しながら、戦略策定から実装までを一括で担う。大まかに言えば、そのような形になります。

 加えて電通グループには、クリエイティブという“ならでは”の強みがある。顧客体験の革新や広告も含めたクリエイティブを、デジタルやテクノロジーと組み合わせることで、当社のパーパスでも掲げる「人の心を動かす」DXを実現していきます。それには、グループでの連携も必要になります。