野村ホールディングスでは、2019年4月のデジタル・カンパニー設立以降、戦略に基づくデジタル化を進めてきた。デジタル・カンパニーの戦略やこれまでの歩み、今後目指すものについて、同社執行役員デジタル・カンパニー長兼営業部門マーケティング担当の池田肇氏に聞いた。
デジタルという“座布団”に全てのサービスを乗せる
――野村ホールディングス(以下・野村HD)のデジタル・カンパニーはどのような組織なのでしょうか。
池田 デジタル・カンパニーは、金融サービスのデジタル化と新領域への挑戦を進めるために立ち上げた組織です。ミッションは「『お客様の望む最良のサービス』を提供し、豊かな社会の創造に貢献する」。ビジョンを「デジタルを活用した金融サービスの構築とデジタルマーケティングを通じてお客様それぞれに最適なサービスを提供する」としています。社内の3つの部門(営業、インベストメント・マネジメント 、ホールセール)を横断する体制となっています。
設立後はまず、グループワイドでのデジタル戦略を策定しました。戦略1は「デジタルサービスを通じた提供価値向上によるユーザー数拡大とアクティブ化」、戦略2は「新領域の新たなビジネス創出」、戦略3は「DX戦略及びDX人材採用」となっています。現在はこれら3つの戦略に基づく取り組みを進めているところです。
――すでに、投資情報アプリ「FINTOS!」や資産管理アプリ「OneStock」など、アプリを中心とするデジタルサービスを展開されています。
池田 アプリの開発は戦略1を進める取り組みです。当社は対面サービスの充実に注力してきた会社であり、これまで、デジタルはリアルに付随するものと位置付けてきました。デジタル・カンパニーではこの考えを、デジタルはサービスのベースにあるものと改めています。
戦略のイメージについて、私はいつも大中小3枚の「座布団」に例えて説明しています。最も大きな座布団は「基本デジタル」です。投資情報や資産管理などの基本的な情報は、デジタルで全てのお客様に提供します。その1つ上に乗る座布団は「領域別デジタル」。お客様の資産や年齢など、属性によって異なるニーズに対応する情報を、コンタクトセンターなどを活用しながら提供します。最上段の座布団が「リアル」です。下の2つの座布団では対応できない個別具体的なニーズには、対面で対応することになります。
当面は、OMO(Online Merges with Offline)を進め、対面サービスとデジタルサービスをいかにシームレスなものにするかがテーマとなっています。デジタルを活用し、デジタルとリアルの間をシームレスにできれば、リアルのサービスの質の向上につながり、当社の強みをさらに強固なものにできるはずだという考えです。
――OMOを含む金融サービスのデジタル化は、対面を重視してきた野村に限らず、まだこれからという印象です。
池田 当社においても、利用データの蓄積とデータ分析に基づくサービスの改善が最も大きな課題となっています。利用データの収集は当然お客様の同意を得て行うわけですが、お客様からすると、自分が提供したデータの価値に見合うメリットがなければデータを提供したいとは思わないでしょう。
AIの活用などにより蓄積したデータの価値を最大限に高め、効率良く継続的にサービスを改善し、さらなるデータの蓄積につなげる。そうした良いループを構築するための取り組みを進めています。その実現に向けた第1段階として注力しているのが、アプリの開発と普及ということになります。