第二創業期の幕開け、スタートアップとの協業も続々
また、松橋氏はパーパスとは別に社長就任の際、ビジネスで大事にしている3つの考え方も表明している。「全体デザインを作る」「Whyを大事に」「基準は世の中」がそれだ。
「新しいサービスを開発するとき、ややもすると所属部署の“個別最適”になりがちですが、本来あるべきはそうではありません。たとえば今年、我々はセブン・カードサービスの株式を取得し、連結子会社化しました。従来の銀行業務に加えてノンバンク事業も一体運営することになったわけですが、お客さま視点での統合的なサービスには“全体最適”、つまり全体設計、全体デザインの考え方がより重要になってくるのです。
『Whyを大事に』とは、周囲を巻き込む“共感マネジメント”がビジネスの最大の推進力になるという考えです。当社の海外送金サービスを例に挙げますと、海外送金を通じて日本に住まわれる外国人の方々に幸せを感じてもらい、日本に行ってみたいという外国人がもっと増えてくれたらいいですよね。どんな商品やサービスでも、なぜ我々が取り組むのか、取り組むことでどんな社会貢献になるのかという意識が、意外と抜けがちなのです。
『基準は世の中』については、比較すべきは同業他社ではなく、世の中の変化に対して自分たちの現在の立ち位置がどうかを、常に自問自答してほしいと考えています。商品やサービスで差別化を図る際も、銀行との比較ではなく、たとえばスマートフォンなど日常的に触れるものとの関係性から、我々のサービスもどう変わっていくかを考えるべきだと思います」(松橋氏)

セブン銀行はこれまで、初代社長の安斎隆氏以降、二子石謙輔氏、舟竹泰昭氏(現会長)と3代続けてトップがバンカー出身だったが、松橋氏は初のエンジニア出身社長である。コロナ禍の3年でよりキャッシュレス社会が加速し、今後のセブン銀行の進化を託すには、テクノロジーに明るい松橋氏が適任だったのだろう。
実際、舟竹氏から社長の内示を受けた際、「コンビニATMの事業をゼロから構築したように、セブン銀行自体をゼロから作り直す発想でやってほしい」と言われたという。
松橋氏は過去、CX(コーポレート・トランスフォーメーション)プロジェクトを立ち上げたり、全社のイノベーションを推進するチーム「セブン・ラボ」の担当を経験した際、特にスタートアップ企業のスピード感や着眼点、アライアンスのやり方などに学ぶべき点が多かったという。実際、セブン銀行はスタートアップとの協業も数多く手がけている。
「アルバイト業務の給与即時払いアプリを手がける株式会社タイミーさんとの連携もその一例です。スタートアップと組むことで新たな社会課題を解決できますし、我々も自己変革ができることがわかりました。こうした協業プランを検討できるアクセラレータープログラム(新規事業創出プログラム)は引き続き強化していきます。
スタートアップと組む領域はフィンテック分野にこだわりません。最近ではブライダル関連の企業との取り組みも検討しています。これは結婚のお祝い金の集金をATMを介してもっと効率化できないかという着想です。ほかにも本人確認など手続きの簡素化を図る意味で、相続に関わるビジネスアイデアも持ち寄って一緒にチャレンジしています」(松橋氏)