(写真中央)東急リバブル 経営管理本部 マーケティング推進部 デジタルコミュニケーション課 相澤 力矢氏
(写真右)電通 第1ビジネス・トランスフォーメーション局 DX開発マネージャー 池田 美咲氏
(写真左)電通デジタル データ&エンゲージメント部門 AI&データコンサルティング事業部 ディレクター 有益 伸一氏

 生成AIを活用したビジネス変革の身近な例を目にする機会も増えてきた。東急リバブルは3月より、不動産情報サイトにおける生成AIの導入を開始した。プロジェクトの狙いや、顧客との丁寧なやり取りが可能な独自の機能について、東急リバブルの相澤力矢氏、開発に伴走したdentsu Japan(国内電通グループ)の二人にJapan Innovation Review編集長 瀬木友和が聞いた

なぜ生成AIを導入したのか

――東急リバブルでは、自社の不動産情報サイトに生成AIを導入するプロジェクトが進行中です。同プロジェクトで目指したことは何だったのでしょうか。

相澤力矢氏(以下敬称略) 当社の不動産情報サイトには、不動産を「買いたい」「借りたい」というお客さまが物件を検索しに来たり、あるいは売却を検討中の方が訪れたりしています。そういったお客さまからお問い合わせを頂き、物件見学の申し込みや査定依頼といったコンバージョンを取るまでがサイトの役割です。ここで、いかにストレスなく使いやすい環境にするかが私のミッションです。

 これまでも滞在時間を伸ばしたり、再訪問率を上げたりするためにさまざまな施策を進めてきました。その中で、今回の不動産情報サイトにおける生成AIの導入は、画面の右下に生成AIチャットを配置し、例えば「こんなことを聞きたいんだけれど、相談できる?」と聞くとしかるべきページに誘導してくれたり、物件検索のシーンで、まだ探す軸が定まりきっていない状態でも適切なサジェストをしてくれたりするなど、サイト上での顧客体験の向上や、お客さまが求める情報への橋渡しを目的として始めたものです。

――プロジェクトの推進にあたって、dentsu Japanと協業した経緯について教えてください。

相澤 多種多様なニーズを持つお客さまに、パーソナライズされた最適なコミュニケーションを取りたいという弊社の要望に対して、ソリューションとして生成AIの活用をご提案いただきました。dentsu Japanでは実際に生成AIを活用した実績もあり、事例も豊富だったことが理由の1つです。

 さらにもう1つ、マーケティングに関する知見をお持ちだという点がウェブサイトの改修・改善という観点で大きなポイントになりました。協業先候補にはコンサルティング会社やSIerなどもありましたが、技術とマーケティング知見の両方に長けているのはdentsu Japanで、一緒に組めばより良いものが作れそうだという期待感を特に感じました。

池田美咲氏(以下敬称略) ユーザーが不動産情報サイトを見る際に、これまでは膨大な情報の中から自分が必要なものを取りに行くというのが基本でした。生成AIチャットを活用することで、「AI接客」を通した対話による課題解決が可能となり、”ユーザー”ならびに”東急リバブル様”双方にメリットを生み出すことができます。

 ユーザーとしては、AIとの対話によっていつでも気軽に「知りたいこと」を聞くことができますし、東急リバブル様としては、一人ひとりのお客さまのニーズを、会話を通じて把握し、各人に最適な提案が行えることになります。このように双方にメリットがある点をご評価いただいたのではないかと思っています。

有益伸一氏(以下敬称略) 一般的なウェブサイトでは言語化された状態で検索窓に文字を打ち込みますが、自分が欲しいものが明確に言語化されていなければ、それは難しい作業です。生成AIを活用することで、自分がまだ何が欲しいのか分からない状態でも、AIとの対話の中でそれが明らかになる、というのは大きな価値ではないかと考えました。

「営業虎の巻」や「QA集」をAIが学習

――年間訪問者数5,000万人が訪れる大型サイトへの生成AI導入は、業界でも類を見ないチャレンジングな取り組みです。「生成AIによる顧客対応」機能の特徴とはどういったものですか。

池田 前述の通り、現行サイトの右下にチャットアイコンを置いて、ユーザーがチャットを打ち込むと回答が返ってくる仕組みです。ユーザーの疑問や物件探しに関する要望に対して、AIが迅速に回答してくれます。

 最大の特徴は、東急リバブル様が長年の経験と実績の中で培った、本当に信頼できる正確なデータをAIにインプットしていることです。ここでいうデータには「営業虎の巻」や「有人チャットQA集」といった、東急リバブル様ならではの“秘伝のたれ”のような情報資産も含まれ、他社が簡単には真似できない要素となっています。

相澤 営業虎の巻というのは、営業パーソン向けの育成資料のこと。QA集は、従来からサイトの一部で実施している「有人チャット」のスタッフ向けに作られたものです。他にもお客さまに配布するパンフレットや売買の流れを解説したハンドブックなど、社内で体系的にまとめられたさまざまな情報を、AIが取り込みやすい形に置き換えて学習させました。

参考図:「Tellus-Talk」の動作の仕組み(提供:東急リバブル)
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有益 機能面では「成長すること」が最大の特徴です。現時点で既にさまざまなデータを連携しているのですが、今後、さまざまなお客さまから新たな質問が寄せられる中で、それに答えられるようにデータ連携をさらに進めていくことで、東急リバブル様ならではのAIとして成長していきます。

 このサイクルが回っていけば、最初は答えられなかった質問に対しても、次のタイミングでは答えられるようになり、次第に賢いAIに育っていくことが期待できます。

――完璧にマッチする物件がなかったとしても、希望条件に近い物件を提案してくれたり、少ない情報でもレコメンド理由とともに提案をしてくれるなど、営業マンのような受け答えがユニークですね。

相澤 ありがとうございます。受け答えの柔軟さや、なるべくお客様に寄り添った姿勢という点には工夫を凝らしたつもりです。また、相手がAIであることが1つのポイントだと思っています。お客さまの心理として、「人に聞くほどではないけれど、ちょっと調べたい」とか、相続や結婚・離婚が絡んでいて「人にいきなり聞くのは気が引ける」といったことも、相手がAIであることで心理的なハードルが下がり、気軽に質問しやすくなります 。

 また、 お客さまに聞かれた質問だけに返答して終わりではなく、良き壁打ち相手、良き相談相手となることで、お客さまが求める最適解をご提示したいと考えています。

チャットの応答のイメージ(提供:東急リバブル)
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顧客体験向上で「お客さまに選ばれるサイト」へ

――生成AI導入プロジェクトにおけるdentsu Japanの役割分担と、プロジェクトで難しかった点やこだわった点などについてもお聞かせください。

池田 「プロダクトマネジメント」と「プロジェクトマネジメント」の2つの観点で電通がディレクションを行い、電通デジタルのAI開発チームがAIの企画から実装までを行いました。

「プロダクトマネジメント」では、dentsu Japanが持つマーケティング知見を活かして、東急リバブル様のサイトのマーケティング効果を最大化することを目的としてディレクションしながら、技術面については電通デジタルと擦り合わせしていきました。

「プロジェクトマネジメント」では、プロジェクトの全体統括として計画策定から進行管理、品質管理までを担当しました。

有益 生成AIを使うということは、不確実性をシステム構築の中にも許容することになります。一般的なシステム開発であれば、要件通りに動作するかどうかが最終的な検収段階での評価基準となりますが、生成AIが組み込まれるとそうではなくなります。

 例えば、物件を問われた際に、従来のシステム開発であればルールに則ってAまたはBまたはCと答えますが、生成AIではそれが無限になります。この無限の部分に対する制御の仕方を、日々PDCAを回しながら試行錯誤を重ねることが開発段階から求められ、それが一番難しい半面、一番やりがいもあるポイントだったと思っています。

――グループ横断の協働は順調でしたか

有益 非常に大きいプロジェクトであり、かつ、その中で生成AIを活用するという難しいプロジェクトでしたが、全体を電通チームがしっかりと見て、われわれ電通デジタルは生成AIの難しいところに集中できたのは良かったです。電通チームがいなければスムーズにはいかなかったでしょう。

――今回のdentsu Japanの伴走をどう評価しますか。

相澤 生成AIを使うということの専門性の高さもそうですし、それをうまく扱ってチューニングしていく技術や、マーケティング観点での整合性と、デザインチームのセンス、クリエイティビティの高さもわれわれのプロジェクトをエンパワーしてくれる要素になったと思います。

 今回、生成AIチャットのキャラクターを作ってもらったのですが、 AIが担うべき役割やミッションからパーソナリティ設定を細かく作り込み、それを体現する形でビジュアルやネーミングを検討しました。

 そこに至る提案段階でも幅広いバリエーションをご用意いただき、なおかつ1つ1つのクオリティが高く、絞り込んでいく過程もよかったと思います。

生成AIチャットのキャラクター「Tellus Talk」(提供:東急リバブル)
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――今後の展望を教えてください。

相澤 生成AIチャットは2025年3月にリリースしましたが、AIはリリースして終わりではなく、その瞬間から劣化していく可能性もあります。日々変わるトレンド変化に追従するため、新たに登場するモデルを使うのか、あるいはその他のチューニングを施すのかなどの選択を常に迫られます。また、お客さまに使っていただき初めて気づくことやブラッシュアップすべき点も出てくると思うので、むしろ、これからの方が大事です。

 その先に見据えているのは、やはりお客さまに選ばれるサイトになること。リリース後に集まってくるお客さまの生の声をいかに有効活用するかが大事です。営業部門へのフィードバックや、サイトの改修・改善への活用など、付加価値としてお客さまに還元していくことが重要だと考えています。

――相澤さんのコメントを受けて、dentsu Japanとしての意気込みやメッセージを最後にお聞かせください。

池田 顧客体験の向上がユーザーの利用を促し、結果として「データ量」が増えます。さらにチャット内のコミュニケーションでユーザーごとのパーソナライズ化されたデータを蓄積することができると「データの質」も向上すると考えています。

 この好循環によって”リッチ化”されたデータを使用して、東急リバブル様ならではのAIとしての成長や改善、及び新しい価値の創造について、今後も様々な施策をご一緒させていただければと考えております。AIチャットだけでなくサイト全体における「お客さま体験の向上」につなげていきたいです。

有益 生成AIの活用によって、東急リバブル様の不動産情報サイトが変わるだけでなく、お客さまの検索行動や不動産との向き合い方も大きく変わってくると思います。さらに、CTRや滞在時間などの従来型のデータとは質がまったく異なる「対話データ」を活用することで、より深いインサイトを得られる可能性があります。会話の文脈や意図を通じて浮かび上がるお客さまの具体的な希望や感情は、従来の指標では捉えきれなかった新しい価値やサービスのアイデアを生むかもしれません。

 このような変化が広がれば当然、追随する競合も出てくるでしょう。しかし、生成AIが当たり前になればこそ、業界の先陣を切って新たな変革に取り組むことで、東急リバブル様のお客さまにさらなる付加価値を提供していけるはずです。そうした次なる変革にも、引き続きご一緒させていただけることを楽しみにしております。

インタビューを終えて
Japan Innovation Review編集長 瀬木 友和

 キーパーソンへのインタビューを通じて、dentsu Japanが取り組む変革の現在地を確認し、その特徴を明らかにするとともに、それが顧客や社会にどのような価値をもたらすのか、ということを見ていく本シリーズも、いよいよ3年目に突入した。

 今回、初めてdentsu Japan顧客企業のインタビューが実現した。お相手は、東急リバブルの相澤力矢氏だ。

 まさに「百聞は一見に如かず」である。dentsu Japanのユニークネスはどこにあるのか、そして顧客にもたらす価値とはいかなるものかということが、これまで以上によく理解できたと思う。

 相澤氏はインタビューの中で、dentsu Japanと協業した狙いについて、同社がAIに関して高い技術力や豊富な実績を持っていることを挙げた。その上で、単に技術に対する知見を持っているだけではなく、それをマーケティングに活かすノウハウと実践力に期待したと語った。実際、今回の生成AI導入プロジェクトを経て、その狙いが間違っていなかったことは、相澤氏の満足そうな顔や口ぶりを見れば明らかだった。

 AIはdentsu Japanが最も注力している分野であるし、マーケティングに強みを持つことも広告会社という出自を考えれば納得だ。しかし、今回のインタビューで私が改めて確認し、百聞は一見に如かずと感じたdentsu Japanの強みはそこではない。それは“コラボレーションする力”だ。

 取材当日、私がインタビューを行う会議室に入ると二人の男性と一人の女性が談笑していた。当然、今回の取材では、東急リバブルの相澤氏と電通の池田氏、電通デジタルの有益氏に話を聞くことは認識していた。それにもかかわらず、現場での三人の和気あいあいとした雰囲気からは、名刺交換のために相澤氏が名刺を出すまで、誰が顧客で、誰がdentsu Japanの人なのか分からなかった。それほど、1つのチームとして溶け込んでいるように見えたのだ。

 プロジェクトを動かす際、例えば今回のように生成AIを導入し、マーケティングに活用するのであれば、AIの技術やマーケティングに関する知見は重要だ。しかし、場合によってはそれ以上に、プロジェクトを推進するメンバーのチームワークの良さやコミュニケーションの円滑さがプロジェクトの成否を左右する。それは、顧客とパートナーの間でもいえるし、パートナー同士(今回でいえば、電通と電通デジタル)でも然りだ。チームワークやコミュニケーションに難があれば、どんなに高い技術力があろうが、マーケティングに詳しかろうが、結局プロジェクトの成功までの道のりは険しく、ハードなものになる。だからこそ、 “コラボレーションする力”が何よりも大切なのだ。

 今、多くの企業がさまざまな変革プロジェクトに取り組んでいる。全社を挙げた大規模なプロジェクトになるほどに関係者は多岐にわたる。特にAIに関しては、コンサルティングファームからSIer(システムインテグレータ)、スタートアップまで、さまざまなプレーヤーが参入し、案件獲得競争を繰り広げている。

 そんな状況だからこそ、広告会社を出自として、企業と生活者のコミュニケーションを支え続けてきたdentu Japanの“コラボレーションする力”が、プロジェクトを成功に導く大きな力となるのではないか。そんなことを感じたインタビューだった。

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dentsu Japanへのお問い合わせ:japan-cc@dc1.dentsu.co.jp

■東急リバブル株式会社 会社概要
所 在 地   東京都渋谷区道玄坂一丁目 9 番 5 号
代 表 者   代表取締役社長 小林 俊一
資 本 金   13 億 9,630 万円
事業内容  不動産仲介業、不動産販売業、不動産販売受託業
設立年月日 1972 年 3 月 10 日