長年、AIの研究開発に取り組む日立製作所が、社内外の生成AIの利活用を推進するため、新たな組織「Generative AIセンター」を立ち上げた。この組織を担うのは、生成AIにくわしいデータサイエンティストやAI研究者に加え、法務や知的財産など幅広い分野のスペシャリストたちだ。日立グループが一丸となって、生成AIの未知なる可能性とリスクに向き合っていく意志の表れといえる。新たな組織を立ち上げた目的と取り組みの内容はどんなものなのか。日立製作所のユニットリーダ主任研究員である十河泰弘氏に話を聞いた。
法務や知財の専門家も参加、生成AIのリスクマネジメントと活用推進を担う新組織
──日立はこの5月に「Generative AIセンター」を新設しました。一体どのような組織なのでしょうか。
十河泰弘氏(以下敬称略) 生成AI(Generative AI)のリスクをマネジメントしながら、社内外の積極的な活用を推進していくために設立した組織です。
組織のメンバーには、生成AIにくわしいデータサイエンティストやAI研究者に加え、社内IT、セキュリティ、法務、品質保証、知的財産など各分野のスペシャリストが名を連ねています。いわゆる、CoE (Center of Excellence)組織です。
本組織の活動は社内外で大きく分かれています。まず社内では、センターが中心となり、日立グループ32万人の社員に業務の中での生成AI活用を推進していきます。生成AIの入力や出力情報に関しては、情報漏洩やプライバシーの侵害など未知なるリスクがあるため、まずは社員自らが実践することで、有効な活用方法のノウハウを蓄積しています。
次に社外については、社内の活動で蓄積されたノウハウを踏まえながら、外部のお客さま企業に対して、生成AIの安心安全な利用環境を提供するサービスを展開していきます。
──このセンターを設立した背景はどのようなものでしょうか。
十河 以前から言語処理技術などのAI技術の研究開発に励んできた日立としては、生成AIのリスクに関して真剣に取り組まなければならないという思いがありました。
その背景に、かつてビッグデータ分析において、プライバシー問題などの倫理面での議論が巻き起こった経緯があります。昨今の生成AIの動きに対しても、同様な問題が発生するのではないかという懸念から、いち早く全社的に対応しなければならないという機運が高まっていきました。AI研究者や各分野のスペシャリストを中心に、日立グループが一丸となって生成AIのリスクに取り組んでいく、といった意思表示を込め、新しい組織を立ち上げました。