バブル崩壊以降、「失われた30年」の時代にも着実に成長を続け、グローバルに展開するようになった企業が少なからず存在する。コーン・フェリー・ジャパンの綱島邦夫氏は、こうした企業をミクロに分析し、それらの企業には共通する黄金の法則が存在することを明らかにした。さらに同氏は、人材組織コンサルタントとして、低迷した企業の成長を後押しする。企業を再び成長へと導くために、リーダーにはどのような姿勢と役割が求められるのか。前回に引き続き、同氏に話を聞いた。
■【前編】トヨタ、ダイキン、テルモ…日本経済低迷期に躍進した成長企業の共通点とは
■【後編】AI時代だからこそ学ぶべき、半世紀変わらない「リーダーに必要な心と身体性」(今回)
次世代のリーダーに求められる「EQ力」
――前回は、低迷が続く企業が復活し成長するための経営のヒントをお聞きしました。経営のあり方が変われば、当然求められるリーダーシップも異なってきます。これからのリーダーにはどのような姿勢が求められるのでしょうか。
綱島邦夫氏(以下敬称略) 例えば、プロ野球球団の千葉ロッテマリーンズを球団史上初の単体黒字に導いた山室晋也氏は「ロッテでやるべきことは、ロッテの社員が知っている」と語ります。ソニーの再生を成し遂げた平井一夫氏は、何人もの社員の話を聞いて回る中、自身のことを「セラピスト」と称していました。
彼らのような優れたリーダーに共通する点は、「現場からアイデアを拾ってきている」ということです。こうしたリーダーたちはいずれも、「IQ」ではなく「EQ」の高さを生かした経営をしています。
EQは「Emotional Intelligence Quotient」を短縮したもので、「こころの知能指数」と訳されます。20世紀までの経営に求められたのは、分析とロジックでした。しかし、21世紀の今、分析とロジックだけでは競争力を生み出せなくなっています。そこで改めて見直され、とりわけ重要になっているのが「直感力」なのです。
阪急電鉄の創業者である小林一三氏は、この「直感力」を「第六勘」と呼び、それを呼び覚ますためには5つの「かん」が重要だと説いています。
自分の目で真の姿を見るように「観察」すること。患者の容体の変化を見るように「看護」すること。状況を分析、吟味し、美術品の真贋(しんがん)を見るように「鑑定」すること。その状況と他の状況との「関係」を見ること。ものごとを「感情」で捉えること。この5つの「かん」を働かせることで、第六勘が閃くというのです。
昨今はAIが急速に普及しており、人間は5つすべての「かん」に取り組む必要がなくなりました。特に「鑑定」と「関係」はAIが得意ですから、人間が行う必然性がなくなります。これらAIに任せると、私たち人間は残り3つの「かん」に集中すればいいのです。現代において直感力を働かせるためには、頭でっかちになるのではなく「より身体性を生かすこと」が大切だと思います。
わかりやすい形でリーダーシップを発揮していたのが、Googleの技術責任者の一人でした。彼に直接話を聞いたとき、同行した記者がテクノロジーの展望について尋ねました。すると「そんなことわかるわけないじゃないか」と話したのです。
「では普段、何をしているのか」と尋ねると、彼は世界中を歩き回りながら「世の中で、誰がどんなことで困っているのか聞いてきて、問題を解決できそうな世界の天才がどこにいるのか、必死に集めている」と言いました。つまり、世界の問題とそれに最適な人材をつなげることが自分の仕事だ、と彼は語ったのです。
Googleの経営会議では「オフィスの絨毯の色をどうするか」について決めている、という話もあります。経営陣は十分な専門性を持たないため、技術的なことを経営会議で決めると判断を誤る、というのです。そこで都度、会議のテーマに関して多くの知識を持つ人を数人集めて、彼らに判断を促します。
先ほど触れた「経営会議でオフィス絨毯の色を決めている」という言葉の意味するところは、「社員の働きやすい環境を整えることこそが経営者の仕事」ということですね。