バブル崩壊以降、日本経済は「失われた30年」に陥り、多くの企業が業績低迷に苦しんだ。しかし、この間にも着実に成長を続け、グローバル市場で躍動を続けた伝統的大企業が少なからず存在する。コーン・フェリー・ジャパンの綱島邦夫氏は、こうした企業の分析を行い、各社に共通する「黄金の法則」を導き出した。「失われなかった30年」を歩んだ成長大企業の特徴と、それらに共通する経営のあり方について、同氏に話を聞いた。
■【前編】トヨタ、ダイキン、テルモ…日本経済低迷期に躍進した成長企業の共通点とは(今回)
■【後編】AI時代だからこそ学ぶべき、半世紀変わらない「リーダーに必要な心と身体性」
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かつての日本企業は「学ぶことを忘れたカナリア」だった
――ご著書『日本の大企業 成長10の法則 失われなかった30年の経営』では「失われた30年」の間に成長を遂げた伝統的大企業について紹介しています。本題に入る前に、そもそも「失われた30年」はどのような時代だったのか教えてください。
綱島邦夫氏(以下敬称略) 「失われた30年」と一括りにして考えがちですが、1990年代、2000年代、2010年代の3つに分けて考えるとわかりやすいでしょう。
まず、1990年代ですが、実はそれほど「失われなかった時代」といえます。バブル崩壊後の資産不況の中にあっても、日本のGDPは30%以上の伸びがあったためです。しかし、多くの経営者は欧米企業で見られた「新たな動き」を見過ごしていました。
1980年代、好調だった日本経済とは対照的に、欧米企業は苦戦を強いられていました。そこで叩きのめされた欧米各社は、21世紀に求められる新たな経営のあり方を模索していたのです。
例えば、いま話題となっている「人的資本経営」は、ピーター・センゲ氏が1990年代に出版した「学習する組織(Learning Organization)」という書籍で提唱されています。「経営陣が気づかないことに現場で働く第一線の人が気づき、ボトムアップで企業を変えていく」というアイデアは大きな話題となり、著書は世界中でベストセラーとなって、多くの欧米企業で研修が行われました。
しかし当時、経済成長がゆるく続いていた日本では、こうした新たな考え方はほとんど話題にのぼらず、普及にも至りませんでした。それは当時の経営者たちが、経済成長を続けてきたそれまでの経営スタイルに自信を持っていたからでしょう。
人は本当にどん底に陥らなければ、なかなか勉強しようとは思わないものです。1980年代までは、経営者たちが必死に勉強してきたからこそ大きな経済成長を成し遂げました。しかし、1980年代以降、経営者はそれを忘れてしまった。いわば「学ぶことを忘れたカナリア」になってしまったのです。