レモンサワーの新商品を開発するなら普通はレモン系の香料を使おうと考えるもの。しかしAIにその先入観はなく、レモン系香料を使わない配合も提案してくる――。新商品開発にAIを用いることの効果をこう語るのは、サッポロビール マーケティング本部新価値開発部の坂下聡一氏だ。サッポロビールでは2021年から「Ready To Drink(RTD)」(購入後にそのまま飲める低アルコール飲料)の新商品開発に、AIシステムを活用している。この7月には、AIシステムの提案をもとに開発した第一弾商品も発売した。飲料の新商品開発におけるAI活用の成果と可能性について、坂下氏に話を聞いた。
「塩分量を変えずにしょっぱさを増したい」AIはどう答えた?
――サッポロビールではAIを使った新商品の開発を進めているとのことですが、AIは人とは違う新たなひらめきを与えてくれるのでしょうか。
坂下聡一(以下敬称略) 先入観にとらわれない提案をしてくるのはAIならではといえます。サッポロビールでは、RTDの商品開発を行うAIシステム「N-Wing★(ニュー・ウィング・スター)」のテスト運用を2021年から開始し、2022年に本格実装しました。AIが新商品のベースとなる原料やその配合、追加する香料の候補など、商品の「レシピ」を提案しています。
その内容を見ると、たとえばレモンサワーの商品を考える際に、レモン系の香料をまったく使わないレシピも候補に挙がってきます。人間の思考ではレモン系の香料が前提になりがちですが、AIにはその先入観がないのです。
すでに「N-Wing★」の提案をもとに開発した新商品も出ています。2023年7月に数量限定で発売した「サッポロ 男梅サワー 通のしょっぱ梅」です。実はこの新商品を作る際、難易度の高いコンセプトを掲げていました。それをAIのアイデアで商品化につなげることができました。
――どのようなコンセプトを掲げていたのでしょうか。
坂下 従来の「男梅サワー」よりしょっぱさの増した新商品を作りたいと考えていました。ただし、塩分量は増やしたくなかったのです。なぜなら塩分量が高まると、缶の腐食が懸念されるからです。
そこで、このようなコンセプトを含め、いくつかの条件を「N-Wing★」にインプットし、新商品のアイデアを出すことにしました。するとAIは、通常なら清涼感を与えることに影響する香料を提案してきました。それをヒントに開発を進めた結果、これまでの「男梅サワー」から塩分量をほとんど変えずにしょっぱさを増すことに成功したのです。私たちにはなかなか思いつかないレシピでした。