プリンターや複合機などの「プリンティング領域」を主力事業としてきたブラザー工業。世の中の紙離れが進む中、同社は事業ポートフォリオの大きな変革を実現しようと、DXに注力している。そのけん引役である代表取締役副社長 IT戦略推進部、新規事業推進部担当の石黒雅氏にDX人材育成について聞いた。
3カ年で200人規模の育成を目指す「DXコア人財」
――ブラザー工業が「DX人財」の育成に力を入れる理由は何でしょうか。
石黒雅氏(以下敬称略) 私たちは今、事業ポートフォリオの変革に取り組んでいます。その推進力となるのがDXであり、DX人財の育成を全社的に行っています。
当社の売上収益の5割以上は、家庭やオフィスで使われるプリンター、複合機などの「プリンティング領域」が占めています。一方、工場の工作機械をはじめとした「産業用領域」は3割ほどとなっています。このポートフォリオを変え、2030年度までに産業用領域の構成を約5割に拡大する計画を立てています。
その変革を実現するにはDXが必要です。当社では、DX戦略における3つの柱を定め、一歩ずつ進めてきました。3つの柱とは、各事業のビジネスモデルを変革する「ビジネスDX」、デジタルをてこに強靭(きょうじん)かつ持続可能なサプライチェーンを構築する「オペレーショナルDX」、そしてその土台となる「DX基盤構築」です。
ビジネスDXの具体例としては、デジタルを活用してお客さまとつながることが挙げられます。印刷機を売ることを目的にするのではなく、印刷機を通じてお客さまとつながり、ニーズを捉えて1to1マーケティングに変えていくことが必要です。工作機械も、通信機能を付加してつながることで、故障予知など、産業用領域のお客さまが求める提供サービスの強化を実現していきます。
オペレーショナルDXにおいても“つながる”ことがポイントで、『つながる工場』、『みえる工場』、『とまらない工場』を実現し、より高度化したお客さまへの価値提供を持続するために、サプライチェーン全体でデータを共通化し、チェーンの見える化を目指していきます。
これらを支えるDX基盤構築も急務であり、その一つに人財育成があります。当社は2022年度から、まずは国内グループ3000人の従業員を対象にDX人財育成をスタートしました。