ブラザー工業 代表取締役副社長 IT戦略推進部、新規事業推進部担当の石黒雅氏(撮影:栗山主税)

 プリンターや複合機などの「プリンティング領域」を主力事業としてきたブラザー工業。世の中の紙離れが進む中、同社は事業ポートフォリオの大きな変革を実現しようと、DXに注力している。そのけん引役である代表取締役副社長 IT戦略推進部、新規事業推進部担当の石黒雅氏にDX人材育成について聞いた。

特集・シリーズ
シリーズ DX人材 ~人材こそがDX推進の鍵

今企業には、デジタル技術を武器に業務を見直し、事業を創り、そして企業を変革していく者、すなわち「DX人材」が必要だ。本特集では、DX人材の育成にチャレンジングに取り組む企業を取材し、各社の育成におけるコンセプトやメソッドを学んでいく。

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3カ年で200人規模の育成を目指す「DXコア人財」

石黒 雅/ブラザー工業 代表取締役副社長 IT戦略推進部、新規事業推進部担当

1960年愛知県岩倉市出身。1984年ブラザー工業入社後、入社4年目から27年間にわたり米国現地法人に出向し、米州におけるビジネス拡大に貢献。2005年から2014年までブラザーインターナショナルコーポレーション(U.S.A)取締役社長。グループ執行役員、グループ常務執行役員、取締役グループ常務執行役員、取締役常務執行役員、取締役専務執行役員、代表取締役専務執行役員を経て、2021年から代表取締役副社長。現在はIT戦略推進部と新規事業推進部を担当。

――ブラザー工業が「DX人財」の育成に力を入れる理由は何でしょうか。

石黒雅氏(以下敬称略) 私たちは今、事業ポートフォリオの変革に取り組んでいます。その推進力となるのがDXであり、DX人財の育成を全社的に行っています。

 当社の売上収益の5割以上は、家庭やオフィスで使われるプリンター、複合機などの「プリンティング領域」が占めています。一方、工場の工作機械をはじめとした「産業用領域」は3割ほどとなっています。このポートフォリオを変え、2030年度までに産業用領域の構成を約5割に拡大する計画を立てています。

 その変革を実現するにはDXが必要です。当社では、DX戦略における3つの柱を定め、一歩ずつ進めてきました。3つの柱とは、各事業のビジネスモデルを変革する「ビジネスDX」、デジタルをてこに強靭(きょうじん)かつ持続可能なサプライチェーンを構築する「オペレーショナルDX」、そしてその土台となる「DX基盤構築」です。

 ビジネスDXの具体例としては、デジタルを活用してお客さまとつながることが挙げられます。印刷機を売ることを目的にするのではなく、印刷機を通じてお客さまとつながり、ニーズを捉えて1to1マーケティングに変えていくことが必要です。工作機械も、通信機能を付加してつながることで、故障予知など、産業用領域のお客さまが求める提供サービスの強化を実現していきます。

 オペレーショナルDXにおいても“つながる”ことがポイントで、『つながる工場』、『みえる工場』、『とまらない工場』を実現し、より高度化したお客さまへの価値提供を持続するために、サプライチェーン全体でデータを共通化し、チェーンの見える化を目指していきます。

 これらを支えるDX基盤構築も急務であり、その一つに人財育成があります。当社は2022年度から、まずは国内グループ3000人の従業員を対象にDX人財育成をスタートしました。