日本の製造業は「知覚品質」において大きな伸び代がある――。こう語るのは、総合部品メーカーNOKの新コーポレートアイデンティティ(CI)策定に携わったクリエイティブディレクターの佐藤可士和氏だ。NOKはなぜグループ統一の新CIを策定したのか? 製造業に知覚品質の向上が欠かせなくなってきた理由とは。新CI発表イベントの内容を基に、製造業におけるブランディングの重要性を考える。
情報時代に「知覚品質」抜きではモノを語れない
NOKは、モビリティや電子機器、人工衛星など、幅広い産業分野の製品を製造してきた。中でも自動車エンジンなどに使われる油漏れを防ぐオイルシールは、約7割の国内シェアを持つ主力商品だ。NOKグループは国内外に92社あり、従業員は約3万8000人を数える。
同社は2023年4月、企業ロゴをはじめとしたグループ統一のコーポレートアイデンティティ(CI)を策定した。これまでは、グループ各社が独自に企業ロゴなどを定めていたが、それらを一つに集約した。「当社は変革基盤を構築している最中です。その中では、これまでのようにグループ各社が各々の価値観やアイデンティティーで活動するのではなく、グローバルに広がる92社、3万8000人の従業員が一つになり、一体で成長していくことが求められると考えました」。同社代表取締役 社長執行役員 CEOの鶴正雄氏は、本プロジェクトの狙いをこう述べる。
新CI策定に携わったのが佐藤可士和氏だ。約2年間、NOKとコミュニケーションを重ね、経営課題や目指す姿を共有した上でCIを製作したという。佐藤氏にとって、BtoBの製造業のCI策定に携わるのは初めてだったが、そういった企業も、ブランディングや企業イメージの確立に取り組む重要性は増していると話す。
「世界中に情報が行きわたるこの時代、あらゆる企業にとって、自社のことを正確に、過小も過大もなく社会へ伝えることが求められています。BtoB企業でも同様です。例えばNOKの価値を正確に伝えることで、製品の品質の高さが認知され、日本にこういう企業があるのだと世界から注目されれば、ビジネスは広がります。優秀な人材も集まるでしょう」(佐藤氏)
製造業において、製品の性能や品質を高めるのは大前提だ。佐藤氏は、それらに加えて、製品ブランドや製造元の企業から想起される品質の優位性、すなわち「知覚品質」を高める必要性も高まっていると言う。そして日本の製造業は、この知覚品質に「大きな伸び代がある」と考える。
「現代のコミュニケーションは、リアル空間とともに情報空間が一緒に存在しています。製品を語るにも、リアル空間で実物を見せるだけでなく、情報空間でどう伝えるかを併せて考えなければなりません。その際、ブランディングやイメージの伝達は切っても切れないものになっており、逆に言えば、性能や製品自体の品質といった“モノだけ”では語れない時代になっているのです」(佐藤氏)
加えて、今回のプロジェクトのように、多数の企業が傘下に入るグループがCIを統一する意義についても、佐藤氏の考えが語られた。「2000年代以降、それまで個別に作られていたグループ各社のブランドを統一するケースが増えています。これも情報化の影響で、企業が世界中に情報を発信する上では、各社個別にブランド戦略を取るより、一つに集約した方が、コミュニケーション効率も発信力の強さも格段に上がるのです」。