東京国際大学 国際戦略研究所・所長・教授の松尾博文氏(撮影:千葉タイチ)

 日本の製造業がグローバル競争力を取り戻すには、SCM(サプライチェーンマネジメント)の延長でDXを捉える必要がある──。こう唱えるのは、サプライチェーン管理、オペレーション管理を専門とする東京国際大学の松尾博文教授だ。日本製造業に求められる発想の転換とは。サプライチェーンはどのように新展開させるべきなのか。松尾氏に話を聞いた。

日本の製造業が停滞したのは“擦り合わせ”にこだわりすぎたから

――日本の製造業がグローバルで存在感を失ったといわれています。その理由をどう見ていますか。

松尾 博文/東京国際大学 国際戦略研究所・所長・教授、データサイエンス教育研究所・所長

京都大学工学研究科数理工学修士、米国MITでPh.D.取得後、テキサス大学オースティン・ビジネススクール助教授、准教授、教授、神戸大学経営学研究科教授等を経て、現職の東京国際大学国際戦略研究所教授。専門分野は、サプライチェーン管理、オペレーション管理で、海外の学術雑誌において多数の論文を出版。現在、供給網の再編成とデジタル経営学の研究に従事。オペレーションズ・マネジメント&ストラトジー学会学会誌の編集長。

松尾博文氏(以下敬称略) 日本の製造業は擦り合わせ(現場の作業や業務プロセス)にこだわりすぎ、SCMに真剣に取り組まなかったことが一つの原因だと、私は考えています。

 例えば、一昔前に世界を席巻した日本の半導体業界では、JIT(ジャスト・イン・タイム)などの取り組みに代表されるように、現場でのものづくりにこだわり続けました。日本企業が停滞する一方で、台頭してきたライバル企業が注力していたのがSCMでした。

 半導体業界だけではありません。中国のアパレル企業であるリー&フォンはSCMのコーディネートを重視したビジネスモデルで大きく成長しました。自社で工場は持たず、企画や開発、設計に特化するファブレスメーカーでありながら、しっかりとSCMを構築している。このように、SCMに注力したことで成功した企業はあらゆる業界に存在します。

 SCMに取り組むことは、ビジネスモデルやビジネスプロセスを変革することと言えます。そして現代において、その変革にはデジタルの活用が不可欠です。今、日本の多くの企業はDXに取り組んでいます。デジタルを活用して会社を変革することと、SCMの新たな展開を考えることは、密接につながっているという理解が必要です。

――どのようなステップで、変革を進めていけば良いのでしょうか。

松尾 製造業においてはまず、従来の製品売り切り型のビジネスから脱却し、「サービタイゼーション」へ移行する必要があります。つまり、販売後もサービスを提供し続けて対価を得るサービス事業へとシフトするのです。

 サービタイゼーションは、製品売り切り型のビジネスと比べて利益率が2.5~3倍に上るとのデータもありますから、取り組むべき施策であることは間違いありません。

 実際、グローバルで見ると多くの製造業企業が利益率のアップに成功しています。ロールスロイスやゼロックス、アップルなどが良い例です。これらの会社は、製品販売後の継続的な補修・メンテナンスやコンサルティングサービス提供などによって、利益率を高めています。