ただ、こうした背景もあり、液体ミルクには「防災備蓄用」「非常時用」というイメージがつき、なかなか一般に普及していきませんでした。そもそも日本では、母乳が出るならなるべく母乳で育てたほうが良いという考え方が浸透しており、「子育てで楽をしようとするのは手抜き」といった考えも、まだまだ根強く残っています。

 それに何より、仮に防災備蓄用に用意したとしても、赤ちゃんは普段飲み慣れたものでないと、飲んでくれません。そのため、液体ミルクが備蓄目的ばかりになってしまうと、マーケットが広がっていかないという危機感が明治にはありました。

 そこで明治は乳幼児向け商品としては初めてフェーズフリー認証を取得し、「日常時にも非常時にも役立つこと」を打ち出すことにしました。

 液体ミルクの価値はなんといっても「誰でもすぐに簡単に授乳できること」です。専用のアタッチメントでスチール缶に乳首を取り付ければ、哺乳瓶さえ使わずに授乳することができます。そのため日常においても、朝や深夜、外出時など忙しいときなどに、育児を支えてくれる存在として液体ミルクには大いに価値を発揮してくれます。

 また、粉ミルクを作るのは温度管理や計量、煮沸消毒など工程が多く、慣れていないと難しいですが、液体ミルクなら誰でも簡単に赤ちゃんにミルクを与えることができます。つまり、これまでパートナーや家族に授乳を任せていた男性などの、育児参画を支えることもできるのです。

 そしてもちろん、液体ミルクは非常時においても、水道やガスが使えなくても授乳することができるというメリットがあります。また、日常的に液体ミルクを使用していれば、赤ちゃんは非常時にも違和感なくミルクを飲んでくれるでしょう。

 くわえて、同社の「ほほえみ」は液体ミルクとしては国内最長である18カ月の保存が可能なため、一般的な赤ちゃんが離乳するまでの期間、保存期間を気にせず使えるだけでなく、非常時でも安心して使用が可能です。まさにフェーズフリーな側面を持った商品だったというわけです。

<連載ラインアップ>
第1回 トヨタのPHEV、アシックスの「走れるビジネスシューズ」は、なぜ非常時にも価値を発揮できるのか?
第2回 「コスト」から「バリュー」へ、なぜフェーズフリーな防災商品が売れるのか?
■第3回 「非常時にも価値を発揮するものを」コクヨや明治が生み出したフェーズフリーな商品とは(本稿)
■第4回 「Zoom」はなぜコロナ後も姿を消すことなく、日常に定着したのか?(1月6日公開)
■第5回 フェーズフリー商品で次々にヒットを生み出す「洋服の青山」の思考法とは?(1月20日公開)

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