写真提供:共同通信社

 複数の販売チャネルを統合し、シームレスなショッピング体験を提供する「オムニチャネル」。各チャネルで収集されたデータに基づき、顧客に最適化した購買体験を提供するマーケティング戦略として注目されている。本連載では、オムニチャネルを実践する国内企業8社の事例を解説した『ケースブック オムニチャネルと顧客戦略の現在』(近藤公彦、中見真也編著/千倉書房)から、内容の一部を抜粋・再編集。都市型ショッピングセンター(SC)のパイオニアであるパルコの施策を取り上げる。

 第5回は、オムニチャネルを推進するパルコの組織体制の進化と、オムニチャネルプラットフォーマーになるための今後の課題を考える。

<連載ラインアップ>
第1回 ECサイト「PARCO-CITY」の開設で幕開け、パルコなぜオムニチャネルを目指したのか?
第2回 Webサービス「カエルパルコ」は、なぜ実店舗とECのカニバリゼーションを防げたのか?
第3回 5つの機能「CCWCS」を搭載、公式アプリ「POCKET PARCO」導入の目的と成果とは?
第4回 リアルとデジタルが融合、新生「渋谷PARCO」が目指したセレンディピティセンターとは?
■第5回 顧客視点でデータをどう活用? パルコが構築したデータ&インフラマネジメント「DAPCサイクル」とは(本稿)


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■ オムニチャネル組織

 これまでパルコは、WEBコミュニケーション部(2013年3月)、WEB/マーケティング部(2015年3月)、グループICT戦略室(2017年3月)、そしてグループICT戦略室を改称したグループデジタル推進室(2019年3月)と、同社のオムニチャネルを担う組織を進化させてきた。

 グループデジタル推進室では、「攻めのIT」としてデジタルを戦略に活用するデジタル推進担当、ならびに「守りのIT」としてデジタルのオペレーションを担う情報システム担当が設けられた。

 そしてデータ基盤の整備を終えた2020年3月、グループデジタル推進室は発展的に改組され、データベース構築とその運営・分析を担う「デジタル推進部」とそのためのシステムを構築する「情報システム部」(2023年3月、情報システム推進部)が設置され、デジタル推進部は企画やコミュニケーションを担当するCRM推進部との連携を深める体制となった。林氏は、次のように述べている。

お客様視点で顧客理解のためのデータを統合するために、それぞれのチームがそれぞれの仕組みをつくって運用することに限界を感じました。これらを統合するサービス設計をして、顧客にまつわるデータベースを構築する際に両者が一緒になることでスピードアップにつながるという判断がありました21

 CRM推進部は、PARCOカード等のキャッシュレス決済、PARCOポイント、ポケパル払い、ONLINE PARCOのサービス企画やオペレーション、および自社のサービス・仕組みに関する顧客の声(VOC:Voice of Customer)を収集して、サービス改善につなげるカスタマーサポートを担う部局である。

 デジタル推進部とCRM推進部の連携体制の構築により、パルコがDAPCサイクルと呼ぶデータ&インフラマネジメント(データ活用環境&インフラ構築)、分析(インサイト・示唆)・データ活用、コミュニケーションプランニング、そしてプランされたコミュニケーションの実現・実行という一連のサイクルをスピーディーに廻すことを目指した(下図参照)。

 DAPCサイクルでは、DataとAnalytics をデジタル推進部が、PlanningとCommunicationをCRM推進部がそれぞれ担うことを想定し、2020年より林氏は、このデジタル推進部とCRM推進部を兼務することとなった。

21 JDIR(JBpress Digital Innovation Review)「探求 DX insight 第3回 DX 先進企業 パルコは何に取り組み、どこに向かう?」、2021年11月29日。(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/67850)