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(鵜飼秀徳:僧侶・ジャーナリスト)

 金価格の歴史的な高騰が、宗教の現場に影響を与えている。特に仏教では、仏像や仏具に金がふんだんに使われてきた。寺院は定期的な修繕が欠かせず、金の価格上昇が経営を圧迫しかねない問題になっている。

 同時に、家庭では仏具を使った節税の機運が高まっている。宗教用具は、基本的には非課税扱い。貴金属販売店には「金のお鈴(りん)」などの仏具を販売するコーナーがあり、節税心理を掻き立てるが、本当に効果的なのだろうか。

 全国各地の寺院では、長い歴史の中で随所に金が使われてきた。京都の鹿苑寺金閣や、岩手県平泉の中尊寺金色堂など、黄金建築は仏教文化の象徴である。多くの寺には黄金色に輝く仏像が鎮座し、本堂内陣も金ピカである。

鹿苑寺金閣。足利義満が極楽を模して造成した
中尊寺金色堂。コンクリート建築の中に黄金に輝く仏殿がある

 寺院に金が大量に使われ始めたのは、平安時代末期以降。当時は「末法思想」という終末論が社会に蔓延し、世相も荒れていた。そこで貴族らは、あの世に期待と想像を膨らませたのである。寺院空間を極楽浄土に見立て、金を使って荘厳にしていった。

 だが、このところの金の高騰によって、寺の修繕費などのコストがかさみはじめた。僧侶の袈裟にも金糸がふんだんに使われているため、法衣も値上がりしている。各地の住職からは悲鳴が上がっている。

 他方で、金の仏具によって恩恵を受けている人もいる。多くの家庭の仏壇まわりにも金が使われていて、過去に純金仏具を買った人の中には含み益を抱えるケースが出てきた。また、相続税対策として純金の仏具を保有する人もいる。

 金の仏壇・仏具が庶民に流通し始めたのは江戸時代からだ。浄土真宗の門徒衆は、京都の本願寺門主から阿弥陀仏を譲り受け、位牌とともに厨子に入れて祀るという習慣があった。

 幕府によって檀家制度が整えられると、宗派を超えて自宅に仏壇を置くようになる。庶民はキリシタンでないことを証明するため、自宅に仏壇を置いて仏教徒であることを示したのだ。

 もちろん「自己防衛」のためだけではなく、日本人の深い供養心があったからこそ仏壇仏具産業が今日まで続いてきている。