TSMCが熊本誘致に応じた理由

──なぜTSMCは日本の誘致にのったのですか?

鈴木:半導体の生産には膨大な電力が必要で、TSMCだけで台湾の電力のおよそ8%も消費しています。ただ、3期目に入った民進党政権は脱原発を進めており、電力の供給が減っています。半導体の生産には水も必要になりますが、使える水の量にも限界があります。

 台湾は人口約2300万人と比較的小さく、人材も土地も限りがあり、台湾内で生産を拡大していくことは難しいという課題を抱えていました。TSMCが日本、アメリカ、ドイツに工場を作ったのはそのためです。

 地経学的に考えると生産能力の分散は好ましいことではありませんが、TSMCの研究開発の核心は台湾の新竹市にある新竹サイエンスパークで、ここに台湾の半導体の心臓があります。これがある限りは、台湾は地経学的な優位性を持っています。

──「中国は巨額な国家補助によってオーバーキャパシティ、すなわち過剰な生産能力をつくり、その過剰生産分をダンピングのような形で安売りをして他国の産業を消滅させようとしていると言われています」と書かれています。どんな分野で、こうした動きを見せているのでしょうか?

鈴木:電気自動車、鉄鋼、太陽光パネルなど挙げればきりがありません。中国はさまざまな分野で、そうした産業補助金や国有企業を通じた国家支援を続けています。

 市場原理を規範としてきた西側諸国は、同じ競争原理のもとで企業が競争すべきという考え方です。一方の中国は、もともと社会主義市場経済という形態を取った国家。市場経済を導入していますが、国の補助金も入ります。

 国鉄や専売公社など、企業に独占させて国が管理させるのが普通の国営企業で、非効率になり赤字経営に陥ることが珍しくありません。かつてのソ連もそうですが、国がお金を出してくれる限り、働くインセンティブは湧かないからです。

 ところが、中国は膨大な数の国営企業があるのに、企業に強い競争力があります。それは、国営企業同士を競争させ、そこで成果を出した人間を出世させているため。国営企業のトップは共産党員で、成果を出さないと出世ができません。このようにして競争力を上げることによって、どんどんコストが下がっていくのです。

 ただ、コストを限界まで下げると利益率を圧縮し、人件費を圧縮し、やがて、デフレスパイラルに入ります。中国の現在の大きな問題はそこにあると私は思います。

 国の補助金があるので、限界まで無理をしてもなんとかやっていくことができますが、不動産不況が勃発し、各省のお金が中央政府に流れ込まなくなってきたので、政府も補助金を出す余裕がなくなっています。つまり、安売り競争をすると本当に血が流れる状況になってきたのです。

 電気自動車のBYDは、いまだに黒字転換できずにいます。国内の競争が激し過ぎて、いくらシェアが大きくても儲からず、とにかく海外で売らないと稼げません。その結果、中国の輸出がアグレッシブになり、それが結果的にさまざまな国の地元産業を破壊するという構図です。