家族のために風俗嬢になった娘が壊れなかった理由
松本:彼女は強いですよねぇ。緒月さんの場合は本人の失踪の話ではなく、彼女の父親の話です。父親はすでに自殺して亡くなっています。ですから、この話では残された側からの視点で書いています。
母親がかなりの依存体質で浪費癖があり、緒月さんは長年お金を吸い取られ続ける人生でした。そこまでされても母親との関係を断ち切らずに経済的に支え続けたのは、両親が彼女を困らせる反面、彼女に対する愛も強かったからです。
特に幼い頃には相当に愛情を注がれたようです。そのため、親の経済状況が悪化してくると、彼女は18歳で性風俗の世界に入り、家にお金を入れるようになりました。やがて、兄弟の学費まで出しました。
──母親の浪費のしかたは強烈でしたね。しかも、そのことを問題だと自覚できていないように見えます。
松本:深く考えていないというか、ただただ浪費して、宗教にもハマり、母親も外から金を吸い取られている。緒月さんはそんな母を止められない。そこがあれほど賢いはずの緒月さんの愛であり弱さでもあります。
彼女は失踪した父への思いも強く持っているのですが、父も娘を強く愛しています。しかし実は、この2人は血がつながっていません。
緒月さんは風俗で働いていることを父に知らせていなかったのですが、父親は風俗情報誌に載った緒月さんの写真などを見つけ、その切り抜きをずっと保持していたそうです。売れっ子風俗嬢だった緒月さんは何度も雑誌に掲載され、父はそうした雑誌を見つけては買い集めていたのです。亡くなった後に分かったことです。
通常の感覚であれば、緒月さんの置かれた状況は精神が崩壊してもおかしくないほど過酷ですが、どこかで家族の愛を強く感じていたから生き続けられたのかもしれません。
──彼女は性風俗産業の中でありとあらゆる仕事を経験して、最終的に自分が楽しく稼げる方法を見つけるところまで行きついていましたよね。ある意味、不幸を突き抜けた感があります。
松本:そうですね。今は性風俗の仕事の中でもわりと自分が楽しめる部分だけを仕事にしていますし、経済的にも安定しています。彼女には同性のパートナーがいるのですが、最近結婚されました。