紅麹事件を不幸な出来事として水に流していいのか

 しかし、テレビは小林製薬の固有の問題として矮小化し、健康食品そのものについて問題提起することもなく、事件が起こっても変わりなく、健康食品のCMを大量に放送してきました。そして、小林製薬も、6月から健康食品ではないCMを1年3カ月ぶりに再開しました(食品やサプリメントを除く)。私は同社の歯間ブラシのCMが流れているのを確認しました。

 小林製薬はテレビCMを通じて、会社や商品の知名度を上げてきました。テレビ局にとってはありがたいスポンサーでした。事件が発生して、共存共栄関係は一旦、破局を迎えたわけですが、ここで見逃してはいけないのは、CMでお馴染みの会社だから小林製薬を信頼した人がいるということです。

 同じことは業界全体にも言えます。紅麹事件は過去の不幸な出来事として水に流して、機能性表示食品のCMを量産し続けていいのでしょうか。

 高齢化社会で健康食品に商機があるのは間違いありません。政府が機能性表示食品を導入したのも経済成長戦略の一環でした。それを背景に、企業は機能性表示食品を開発し、CMで宣伝することをテレビ局は歓迎しました。

 私は、この仕組みには、営利主義が優先され、安全性や倫理観が隅に追いやられている日本の経済社会の病理があると感じます。

 首尾一貫して「効果」を装いながら、読めないくらい小さな文字で「効果を表すものではありません」と表示する――そんな矛盾を抱えた機能性表示食品のCM。科学的根拠が脆弱だから、それを覆い隠すために、幻惑させる手法を駆使しているのではないかと邪推してしまいます。

 情報弱者とされる高齢者に健康の「ハルマゲドン」を突き付け、不安をあおるCMは、やはり問題だと言わざるを得ません。テレビ局と企業は、命と健康に関わることだと重く受け止め、健全なCMのあり方はどういう形なのか、問い直す姿勢が求められるはずです。