テレビ局は視聴率競争での勝利に執着するばかりでいいのか(写真:Sergey Nivens/Shutterstock.com)

中居正広氏の女性トラブルが大きな社会問題に発展した。これは渦中にあるフジテレビだけの問題だろうか。視聴率を稼ぐ貴重なタレントをテレビ各局が崇め奉り、その積み重ねが創り出した結果ではないか。背景にあるのは、視聴率競争での勝利に執着するマッチョイズムだ。それは現場に犠牲を強いたり、人材を道具のように扱ったりする弊害を生む。そして、その末路は人権侵害である。

(岡部 隆明:ジャーナリスト)

トラブル後も特番「中居正広のプロ野球珍プレー好プレー大賞」を放送

 人権意識が不足していた——

 フジテレビが開いた2度目の記者会見で、嘉納修治会長(当時、1月27日辞任)と港浩一社長(同)が、それぞれ口にした言葉です。社会の公器であり、人権尊重を担うべきテレビ局のトップが、そのように謝罪しなければならない光景は異様でした。

 現在、フジテレビの番組のCMの大半が、公益社団法人ACジャパンの公共広告に差し替わっています。スポンサーは、CMをキャンセルした理由として、フジテレビの「対応の悪さ」とともに、「人権侵害に関わる問題」を挙げています。

 トラブルを覚知した後も、中居氏の番組出演をなぜ続けたのか?

 これは、記者会見でも問われた人権意識にも関わる論点です。フジテレビは、「番組終了によって、憶測を呼ぶことを憂慮した」と回答しています。被害にあった女性の心身の状態を最優先して、社内での問題の情報共有を最小限にしたことから、中居氏の起用が続いたと。しかし、苦しい釈明に聞こえます。

 トラブル後に、レギュラー番組ではない、「中居正広のプロ野球珍プレー好プレー大賞」という特番を4回も放送しています。このことだけからも、説得力が乏しいと感じます。

 結局、優先したのは「女性のプライバシーや心身の回復」ではなく、人気タレントである「中居氏の起用」ではないか。釈明を聞いた人がそう勘繰るのも無理はありません。

「示談で解決済み」なのだから、何事もなかったように中居氏の起用を続けられるのだ…そんな理屈を自分たちで言い聞かせて正当化したようにも見えます。

 中居氏は旧ジャニーズ事務所のSMAPのリーダーでした。SMAPは日本の芸能史上に燦然と輝くグループであり、フジテレビのみならず、テレビ局各社にとって多大な功労がありました。SMAP解散後も、中居氏は司会として活躍し、各社は重宝して起用していました。視聴率至上主義に不可欠な存在だったと言えます。