廃食用油リサイクルだと原料の奪い合いに

 国内ではすでに多くの廃食用油が再利用されているからである。廃食用油の回収業者などで組織する全国油脂事業協同組合連合会(全油連、東京・文京)のまとめで、2021年度に国内で消費された食用油は約248万トン。そのうち、業務用に消費された206万トンから38万トンを回収・精製して再利用された。用途でもっとも多い20万トンは、動物性油脂などと混合して主に養鶏産業向けの配合飼料に使う。食品の供給過程で消費された食用油が再利用され、食肉や鶏卵の生産を支援する仕組みができあがっている。

 廃食用油のリサイクルは、このように量と品質が安定した食品企業や外食チェーンなどから進んだため、もっと増やす手はある。家庭の食用油を回収場所に集め、利用する取り組みも札幌市や京都市が取り組んでいる。東京都はSAF製造につなげる回収促進事業としてイトーヨーカ堂や日揮ホールディングスなどと協定を結んだ。

 それでも、2030年目標を満たす130万〜140万トン規模のSAFを製造するだけの廃食用油を本当に集められるかどうかは疑問だ。再生した食用油は2021年度に先行する海外に12万トンが輸出されており、製造能力の拡大とともに内外で奪い合いが激しくなることも予想される。既存の飼料向け需要にも影響しかねない。

 それだけではない。現在のジェット燃料に比べ価格が高くなってしまうという問題もある。

 前述の日本経済新聞の記事では、コスモエネルギーホールディングスが4月に国内で初めてSAFの量産を始めたものの、他の工場稼働は難航している様子を伝えている。SAFの価格が高く、航空会社が購入を渋っているからだ。

 買い手が購入契約をしなければ設備投資に踏み切れない。6月に開かれたSAF推進に向けた官民協議会。会合は非公開だが、公開された資料を見ると国内航空会社で構成する定期航空協会は「国産SAFの価格はジェット燃料の3倍以上と高額であり、このままでは事業継続が困難」としている。

国内航空大手をはじめとする計16社で2022年3月、SAFの商用化や普及拡大に取り組む団体を設立し、活動してきたが…(写真:つのだよしお/アフロ)

 ある程度予想されたことだが、政府が目標実現の但し書きに残した「不確実性あり」の懸念が現実味を帯びている。SAFに限らず、脱炭素で供給されるエネルギーや素材は高コストとなり、それを転嫁した価格を買い手が受け入れてくれるかどうかが大きな課題になる。