
日本政府は日米関税交渉でトウモロコシや大豆の輸入拡大を検討している。中でも注目されるのが聖域のコメに踏み込むかどうかだ。米トランプ大統領は日本の自動車分野の非関税障壁とともに、農産物市場の閉鎖性を問題視し、コメや食肉などの輸入拡大を求めている。折しも、国内では備蓄米を放出したにもかかわらずコメの高値が収束しない。蘇るのは「平成の米騒動」から緊急輸入に追い込まれ、コメ市場の部分開放に至った1990年代の記憶だ。歴史は繰り返すのか。
(志田 富雄:経済コラムニスト)
コメの鎖国を揺るがしたのが平成の米騒動
日米両国政府は日本時間の2日、ワシントンで2回目の会合を開いた。日本側は相互関税とともに自動車や鉄鋼、アルミなどへの関税撤廃を求めた。日本にとっては猶予期間である90日が過ぎれば相互関税がかかる。米国側も「我々は急いでおらず、有利な立場だ」というトランプ大統領の言葉とは裏腹に支持率が低下する中で早く一定の成果を出したい焦りがある。
高関税が課されたことで中国から米国に向かうコンテナ船は滞留しており、日用品などが米国内で欠乏する事態になればトランプ政権に対する批判の声が強まるのは必至だ。
政府は事務交渉を継続して5月中旬に再び閣僚レベルで会合。6月に首脳同士で合意する道筋を描く。日本政府は米国産農産物の輸入拡大や自動車分野の非関税障壁の見直し、中国依存が高まってしまった造船での技術協力といったカードを手に持つ。日米双方の腹の探り合いが続く中でコメは最後の切り札になる可能性が高い。
日本には海外のコメを関税なしで受け入れる「ミニマムアクセス」と呼ばれる制度がある。貿易の自由化を目指した関税貿易・一般協定(ガット)・ウルグアイ・ラウンドでの合意に基づき、1995年度に導入された。現在は玄米で毎年約77万トンを無税で輸入し、入札によって需要家に販売する。ミニマムアクセス以外で海外のコメを買うことも可能だが、その場合は1キロあたり341円の関税がかかる。

政府は長らくコメ市場を閉ざし、「1粒たりとも輸入しない」という姿勢を貫いてきた。コメの内外価格差は大きく、海外の安いコメが流入すれば国内農家が追い詰められ、自民党政権を支える農業票を失うことになるからだ。この鎖国政策を揺るがしたのが平成の米騒動だった。