
「トランプ関税」をめぐる日米交渉の中で、米国からのコメ輸入拡大案が取り沙汰されています。食料安全保障の観点からも日本側は「コメ輸入では譲歩しない方針」とも伝えられていますが、日本はこれまで自由貿易推進やコメ不足などを理由にコメの輸入を少しずつ容認してきた経緯があります。関税交渉における日本側のカードとも言われるコメ輸入。今回のやさしく解説は、その歴史と構造に焦点を当てます。
自動車関税、参院選…交渉材料に?
「米国産コメ 輸入拡大案 政府検討 関税交渉打開へ」——。
こんな見出しの大きな記事が4月22日、読売新聞朝刊の1面トップを飾りました。それによると、日米交渉の最優先課題とする自動車の追加関税を見直してもらうため、コメ輸入に関して日本側が踏み込んだ案を示し、事態を打開することを検討するというのです。
米国産のコメの輸入拡大案を示す方向で日本政府が検討に入ったとのニュースはその後、他メディアでも報道されました。読売新聞の記事が出た翌日の4月23日には、朝日新聞が朝刊で「米国産コメ、輸入拡大案 関税交渉、日本側が検討」と追随。さらに日本経済新聞は同日の朝刊で、日本政府が検討しているコメの輸入量は「無関税で7万トン前後」である、と具体的な数値を挙げて報じました。
米国産コメの輸入拡大を検討する背景には、「コメなどの農産品に日本は高い輸入障壁を設けている」として、トランプ大統領が日本にコメの輸入拡大を促しているという事情があります。
トランプ氏は4月2日、「日本はコメに700%の関税をかけている」という事実と異なる発言をしましたが、日本のコメ輸入を標的にしているのも事実。このため、日本側は、トランプ氏の主張に対応する姿勢を示せば、自動車を軸とした関税交渉で有利な条件を引き出せるのではないかと考えているのです。
しかし、コメ農家の背後には、自民党の強力な支持基盤である農協(JA)がいます。今夏には参議院選挙も控えており、衆院で過半数割れとなっている自民・公明の与党側は選挙前にJAを刺激するような形で日米交渉は進めたくないはずです。
実際、「コメの輸入拡大を政府が検討」というニュースが報じられると、江藤拓・農林水産大臣は即座に「主食である自給可能なコメを(大量に)海外に頼ると、日本のコメの国内生産が大幅に減少してしまう。(それが)国益なのか。国民全体で考えていただきたい」と会見で強調し、コメ輸入拡大に否定的な見解を示しました。
この連休中には日米交渉を担当する赤澤亮正・経済再生担当大臣が再び渡米し、米側と2度目の関税交渉に臨みましたが、その交渉団にも農水省の職員は同行しませんでした。