農業分野の競争力や食料の安定調達に結びつけられるか
ミニマムアクセスで輸入したコメは主食向けの販売が10万トン程度内にとどまっており、多くは加工や飼料用、海外への援助米に使われる。備蓄米の販売と同じく、主食米への影響は極力避けたいからだ。そんな状況で米国産を増やしたところで日本市場での存在感はたかが知れている。店頭の高値を是正するにも力不足だ。
トウモロコシや大豆などの輸入拡大なら手をつけやすいと考えるかもしれない。すでに米国の穀物協会はトウモロコシを原料に製造したバイオエタノールを日本の再生航空燃料(SAF)向けに売り込みをかけており、エタノールとしての輸入を増やす選択肢はある。
ただ、日本のトウモロコシ輸入先では米国の割合が低下傾向にあり、23年には増加傾向にあるブラジルと並ぶまでになった。ブラジルは農産物輸出国として成長を続け、トウモロコシでは海上運賃を含む価格競争力でも米国産に勝るようになったからだ。ここであえて米国産を増やすとなれば調達する日本企業のコストを上げてしまうことになりかねない。食料安全保障の観点からも調達先は分散させた方がいい。
さらに日本にとって悩ましいのは、米国で栽培される大豆やトウモロコシの9割以上は遺伝子組み換え品種であることだ。大豆は豆腐、納豆といった食品原料にも使うため、米国からの大豆輸入を増やすには非組み換え品種の栽培を米国の農家に増やしてもらう対応も必要になる。しかし、トランプ政権は欧州連合(EU)による組み換え作物規制を非関税障壁と見ており、あからさまに組み替え作物を敬遠すると米国側の反発につながるリスクもある。
政府はコメを守るのは国益という単純な発想を抜け出し、関税交渉をいかに農業分野の競争力や食料の安定調達に結びつけていくかを考えてほしい。今回のコメ価格高騰では農業政策の問題点も浮かび上がった。米国が指摘する非関税障壁にはこれを機に改めるべき点もあるはずだ。