(英エコノミスト誌 2025年1月4日号)
おもちゃのレゴから肥満症薬のノボノルディスクに至るまで、北欧が欧州のトップ企業を数多く輩出している。
デンマークの首都コペンハーゲンの街中にある「カールズ・ビラ」1階のダイニングルームからは、古典様式の彫像をいくつも配した美しい庭が一望できる。
このアールヌーボー様式の邸宅は1892年、ビール大手カールスバーグの創業者の息子カール・ヤコブセンによって建てられた。
それ以降、同社は世界トップクラスのビールメーカーへと成長を遂げ、今日ではこの邸宅を会議などに利用している。
現在の最高経営責任者(CEO)であるヤコブ・アールプ・アンデルセン氏は、同社の成功はデンマーク企業をめぐる大きな謎の一部だと認める。
どうしてこんなに小さな国からこんなにたくさん大企業が生まれるのか――。
インタビュー前夜に開かれた夕食会では誰かにそう尋ねられたそうだ。
小国が世界に冠たる大企業を輩出
デンマークについて言えることはフィンランド、ノルウェー、そしてスウェーデンについても言える。
いわゆる北欧の4大大国は世界全体の国内総生産(GDP)に占める割合が合計しても約1%で、人口は世界全体の0.3%にすぎない。
それなのに、世に送り出した大企業のリストには目を見張るものがある。
レゴは世界最大の売上高を誇るおもちゃメーカーで、イケアは世界最大の家具メーカーだ(そして、スウェーデン風ミートボールのおかげで世界第6位のレストラン・チェーンにもなっている)。
製造業にも強く、産業機械のアトラスコプコ、通信機器のノキアやエリクソン、シートベルトのオートリブ、エレベーターのコネなどがずらりと並ぶ。
北欧は世界最大の音楽配信サービス企業(スポティファイ)と後払い決済(BNPL)サービスの世界最大手(クラーナ)の本拠地でもある。
肥満症薬のパイオニアであるデンマーク企業ノボノルディスクは、新薬の臨床試験が残念な結果になったことから12月に株価急落に見舞われたものの、今でも欧州最大の市場時価総額を誇っている。
外国のライバル企業を凌ぐ好業績
北欧企業の株価はここ10年間、欧州のほかの地域の企業を上回る成績を上げている。
前述した4カ国では非金融企業がここ10年間、欧州平均を上回る株主リターンを計上している(図1参照)。
また、欧州大陸の大型株で構成されるMSCI欧州株指数においても、北欧企業の占める割合は5年前の10%から約13%に拡大している。
ドイツとほぼ同じシェアを得ている格好だ。
北欧企業の業績は世界各地の同業者と比べても引けを取らない。本誌エコノミストは北欧の時価総額最上位20社について多数の経営指標を計算し、外国の主要なライバル企業との比較を行った。
その結果、北欧企業の平均営業利益率はライバル企業の中央値(2023年実績ベース)より7ポイント高く、投下資本利益率(ROIC)も5ポイント高いことが分かった。
また債務残高の対営業利益比(減価償却前)は、20社中14社が外国のライバル企業よりも低かった。売上高伸び率(年率)はライバル企業とほぼ同程度だった。
もちろん、すべての北欧企業が成功しているわけではない。
電気自動車(EV)向け電池のノースボルトは先日経営破綻している。ノキアの携帯電話端末事業は米アップルの「iPhone」に蹴散らされた。
また、北欧企業の成功には運も味方している。
この地域は木材や鉄鉱石、そして――とりわけノルウェーの――石油・ガスといった天然資源に恵まれている。
しかし、それでも北欧企業の業績は目覚ましい。背景には果たして何があるのだろうか。