なぜバンスはウクライナを嫌うのか?

──プーチン大統領は、ウクライナがとても受け入れられないような条件を提示し、それをアメリカから提案させたうえで、ウクライナに断らせようと考えているのではないでしょうか?

リンドシュテット:それがプーチン大統領の一つの狙いですが、バンス副大統領もその方向に持ち込みたいと考えている節があります。その結果が、ホワイトハウスでの大惨事とも言えるあの口論でした。

 彼はゼレンスキー大統領に嚙みついて、アメリカとウクライナの交渉を決裂させようとしました。とても危険なやり方で、正気とは思えません。これこそロシアが望む展開です。

 アメリカとの関係を悪化させれば、ウクライナは一緒に戦うどころか、アメリカがロシアにかけている制裁も解除してしまう可能性があります。ウクライナへのあらゆる支援が止まってしまうかもしれません。

 プーチン大統領はウクライナがのめないような提案を出していくでしょう。

──なぜバンス副大統領はそれほどウクライナを嫌うのでしょうか?

リンドシュテット:それは多くの人が不思議に思う部分でもありますが、彼はかつて「私はウクライナのことなど気にしない」と発言したことがあります。恐らく彼には、ウクライナという国に、アメリカが軍事的に援助するほどの戦略的な価値があるとは思えないのでしょう。

 バンス副大統領は「アメリカではなく欧州がウクライナを助けるべきだ」「欧州はこの件でただ乗りしている」と言い続けてきました。ウクライナはアメリカから遠く、地政学的にもアメリカにとって重要な存在だとは思えないということです。

──ルビオ米国務長官をはじめ、トランプ政権には、ウクライナに同情的な人々もいます。

リンドシュテット:その通りです。ルビオ国務長官はロシアに対してはとてもタカ派的で、アメリカは何としてもウクライナと戦い続けるべきだと主張してきました。そのことが、キューバやベネズエラの専制政治を否定することになると信じています。

 ただ、そのルビオ国務長官も次第にトランプ政権の中で変節しています。「ロシアはアメリカにとっての巨大な敵でもない」「この問題はもっと欧州が関与していくべき」「欧州の安全保障の問題だ」と彼は言い始めています。

 むしろ、ロシアを脅威に感じているのは、アメリカのロシア・ウクライナ問題の特使を務めるキース・ケロッグ氏です。彼は、アメリカによるロシアへの制裁とウクライナへの支援を増やすべきだと考えています。

 また、ここに来てトランプ大統領のほうがウクライナに同情的な発言をするようになっています。特に、3万5000人とも言われるウクライナの子どもが強引にロシアに移住させられ、ロシア国民にされたことに胸を痛めています。

 かつてトランプ大統領はその件に全く触れませんでしたが、ゼレンスキー大統領と話をする中で、そうした情報を意識して語るようになりました。