上機嫌の笹川良一氏(写真:橋本 昇)

(フォトグラファー:橋本 昇)

 昭和の時代。テレビによく流れたCM、法被姿で拍子木を鳴らしながら「戸締り用心火の用心~」と歌いながら練り歩くジイさまの姿をはっきりと覚えている。そして最後に子どもたちと一緒に「一日一善!」と唱和し、モーターボートが水を押し分けて疾走するシーンで終わるあのCMだ。

 CMには、老母を背負い神社の階段を登る続編もあった。「お父さんお母さんを大切にしよう」と笹川氏は呼びかけていた。

 あの爺さまはいったい誰なんだろうか? 後に知った。日本船舶振興会会長・笹川良一氏だ。

意外にも「取材OK」

 というわけで、私の頭の中にある笹川氏のイメージは「モーターボートの爺さま」だったが、長じて知ったのが、その裏にあったのは「日本政財界の裏の顔役」「巨万の富」「大日本帝国の残り香がプンプンする怪しい人物」といった“右翼のドン”、さらには“日本のドン”としての顔だった。

 米誌TIMEのインタビューで笹川氏は「私は世界で一番の金持ちのファシストである」と語っている。

 1989年頃のことだ。カメラマンとなっていた筆者に、週刊誌のグラビア企画で笹川氏を取材しようという企画が上から降りてきた。あの「戸締り用心」のCMの人物だ。

 ダメもとで日本船舶振興会(現・日本財団)に取材申し込みをすると意外にもすんなりOKが出た。撮影場所は品川区晴海の船の科学館近くにある競艇場だった。