現代ボクシングにおいて、最強を証明する方法は一つではない。重要なのは、どのタイミングで、どの階級で誰と戦うか。その選択が選手の評価を決定づける。井上は、もはや単なる「歴代最強王者」ではなく「時代を動かす側」にいる。その立場にある者だけが背負う重圧と責任が、次の一戦の行方をこれほどまでに難解なものにしているのだ。
水面下において計画中とみられている来年5月・東京ドームでの中谷戦が消えるか、先送りされるか、それとも形を変えて実現するのか。その答えは、まだ出ていない。ただ一つ確かなのは、井上のキャリアが強さのピークに差し掛かる中で、残された試合一つひとつが「選択の記録」として後世に残るという事実である。
井上との対戦を熱望する世界スーパーフライ級統一王者“バム”ロドリゲス
そして今や追われる立場の井上は多くの強豪ボクサーから、その「首」を狙われる立場でもある。23戦16KO無敗のWBA&WBC&WBO世界スーパーフライ級統一王者ジェシー“バム”ロドリゲス(米国)は25歳のサウスポー。
ジェシー・ロドリゲス(写真:ロイター/アフロ)
この日、リヤドで行われた同興行を共催した英大手興行会社「マッチルーム」と契約する“バム”もまた井上との対戦を熱望しており、夢実現のためならば将来的に2階級上のスーパーバンタム級、あるいはフェザー級転向も辞さない構えを見せている。そう、敵は中谷だけではないのだ。
モンスターは今後も数多の強豪と対戦し、勝ち続けていかなければならない。その過酷なテーマの中で勝利そのものよりも、どんな道を選び、何を成そうとしたのか。その問いこそが、井上尚弥というボクサーの価値を最終的に決定づけることになる。


