2023年3月、WBC準決勝のメキシコ戦で力投する山本由伸(写真:共同通信社)
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 合理性と効率が全てを規定するはずのメジャーリーグにおいて、今季最も異質な輝きを放った存在がいる。ロサンゼルス・ドジャースの山本由伸投手だ。

 球数管理、ローテーション制御、負荷分散。MLBはこの20年で、投手を「消耗させない資産」として扱う思想を徹底させてきた。先発投手はもはや一試合を支配する存在ではなく、シーズン全体を通じて最適化される“部品”に近い。そこに感情や美学が入り込む余地は、ほとんどない。

 だが、その巨大な合理主義のシステムの只中で、山本は極めて異なる存在感を放った。

「なぜそこまで背負おうとするのか」

 レギュラーシーズンでのフル稼働に加え、ポストシーズンでは登板間隔を詰めながらも圧倒的な内容を維持し、ワールドシリーズ連覇の原動力となった。その結果としてのワールドシリーズMVP、そして日本人初のベーブ・ルース賞受賞は、単なる個人タイトル以上の意味を持つ。

 米球界が本当に驚いたのは、その“次の一手”だった。

 疲労困憊であることは、誰の目にも明らかだった。だからこそ多くの米メディア、関係者は「来春のWBCは辞退するだろう」と読んでいた。過去を振り返れば、WBC後に主力投手が故障に泣かされた例は決して少なくない。2009年の松坂大輔、2023年のダルビッシュ有、同年の大谷翔平――いずれもWBC参加後のシーズン中、あるいは終盤で大きな代償を払った。

 その歴史を十分に理解した上で、なお山本は侍ジャパンの一員に加わり、来年3月開催のWBC参加を選んだ。

 この判断は、日本では「責任感」「覚悟」として歓迎ムードで受け止められた。一方、米国内では、想像以上に戸惑いと驚きをもって迎えられている。合理主義の文脈で見れば、これは必ずしも“正解”とは言い切れないからだ。