白鵬氏自身が手を下したわけではない。しかしながら北青鵬によって拳や掃除用具の柄を使った暴力のみならず、殺虫スプレーに引火させて火炎を近づけるといった生命の危険すら伴う凄惨な行為が弟弟子たちに部屋で1年以上にわたって常態化していたことを見逃し、報告を怠った不作為は「師匠失格」の烙印を押されるに十分なものだった。

 結果、白鵬氏は2025年6月に協会を去り、引退直後の元照ノ富士が「伊勢ヶ濱」を襲名して部屋を継承。旧宮城野部屋の力士たちは、事実上「吸収合併」される形で新たな師匠の下に身を置くこととなった。

日本相撲協会を退職し、記者会見する元宮城野親方の白鵬氏(写真:共同通信社)

改名を余儀なくされた旧宮城野部屋の力士たち

 ここで注目すべきは、力士たちに課された「環境の激変」である。

 新師匠である元照ノ富士の伊勢ヶ濱親方は移籍してきた弟子たちに対し、自身の現役時代の四股名にちなんだ「〜富士」への改名を推進した。期待の若手であった「伯桜鵬」が「伯乃富士」へと名を変えた際、そこに葛藤がなかったと言えば嘘になるだろう。

 先代師匠への思慕と、新師匠への忠誠。お互いの「不仲」について強く否定している伊勢ヶ濱親方と白鵬氏ではあるが、同じモンゴル出身ながら現役時代から確執が噂されており、その指導方針や部屋のカラーの違いは移籍してきた弟子たちにとって、目に見えない巨大なストレスとなって蓄積されていたのではないか。