所信表明演説をする岸田首相(写真:共同通信)
  • 岸田首相は所信表明演説で、労働市場改革や企業の新陳代謝促進、物流改革など生産性の引き上げにつながる構造的な改革を掲げたが、11月にまとめる経済対策は生産性向上に逆行するバラマキ政策が中心だ。
  • 企業部門や家計は貯蓄超過のため、名目長期金利の上昇はプラスだが、長年にわたるゼロ金利での借り入れに慣れた企業や家計にすれば、1〜2%程度の金利上昇でも負担は大きい。
  • バラマキによる消費てこ入れよりも、来たるべき長期金利の上昇を前に、企業の生産性改革や財政健全化の道筋について真剣に議論すべきだ。

(大崎 明子:ジャーナリスト)

 岸田首相は10月23日の所信表明演説で、「変化の流れを絶対に逃さない、つかみ取る」「先送りせず、必ず答えを出す」とし、「経済、経済、経済」と連呼してみせた。

 だが、デジタル化や省エネ・脱炭素、AIなどへの投資を謳うところは従来どおり。「三位一体の労働市場改革、企業の新陳代謝促進、物流革新など、生産性を引き上げる構造的な改革」を掲げる一方で、足元の経済対策として打ち出されたものは、むしろ生産性を引き上げる改革には逆行するバラマキだった。

減税や給付金でも、将来不安から消費は増えず

「税の増収分の還元」と称して迷走を続けた「減税」については、一時的な所得税減税になりそうだ。あわせて非課税世帯には給付を行う方針だという。

 インフレによる痛みを和らげないと、企業は賃上げできないし、人々は消費をしない。だから、まずは「バラマキで消費てこ入れを」というのが岸田政権や同様に減税や給付を主張する野党の考えだろう。しかし、足元では需給ギャップがプラスに転じており、財政のバラマキが消費を刺激するのならば、かえってインフレ要因になる。

 それに、多くの国民が消費を増やすとは考えにくい。先進国で最悪の財政を健全化するという課題を日本が中長期で抱えていることは誰しも知っている。給付金にしても減税にしても一時的かつ小規模なものにならざるをえず、将来は増税の公算が大きいことを国民は十分、認識している。

 そのため、増税に備えて余裕がない中でも貯蓄してしまい、消費には回らないだろう。コロナ禍対策としてばらまかれた給付金も貯蓄に回っているし、今のインフレ下でも貯蓄率はコロナ禍前と変わらない(図表1)。いわゆる非ケインズ効果が働く国になってしまっている。

【図表1】

 したがって、給付や減税は特に支援が必要な層への給付に絞るべきで、一律の減税はすべきでない。非課税世帯への給付も、対象に十分な金融資産を保有する高齢世帯も含まれてしまうので望ましくない。

 さらに、エネルギー補助金や賃上げ促進税制の強化は、かえって日本の生産性向上を妨げるおそれがある。