韓国の統一教会本部(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

(山本一郎:財団法人情報法制研究所 事務局次長・上席研究員)

 国会では、旧統一教会の関連団体から選挙支援を受けていたとされる盛山文部科学大臣への不信任決議案ですったもんだする一方、文化庁がついに財産監視の強化対象となる宗教法人の基準策定まで漕ぎ着けました。

 関係者の皆さま、大変にお疲れ様でございました。登山で言えば8合目までやってきた感じでしょうか。

 なお、本件基準の名前は「特定不法行為等に係る被害者の迅速かつ円滑な救済に資するための日本司法支援センターの業務の特例並びに宗教法人による財産の処分及び管理の特例に関する法律に基づく指定宗教法人及び特別指定宗教法人の指定に関する運用の基準」です。クソ長い。

【関連資料】
特定不法行為等に係る被害者の迅速かつ円滑な救済に資するための日本司法支援センターの業務の特例並びに宗教法人による財産の処分及び管理の特例に関する法律に基づく指定宗教法人及び特別指定宗教法人の指定に関する運用の基準を制定しました(文化庁)

 これは何なのかと簡単に言えば、旧統一教会(現家庭連合、以下表記は統一教会)は悪い組織だけど、その悪い組織を「お前は悪いから」と勝手に指弾して解散させたり制約したりすることは法治国家ジャパンではできませんから、いろいろ宗教団体がある中で、なるだけ統一教会だけを制裁するために必要な定義を作りました、という内容です。

 統一教会は問題だけど、統一教会だけを名指しすることができないのは、まだいろいろ裁判中であり、オウム真理教と違って、直接犯罪行為を犯したと認定することが現段階ではできないからに他なりません。

 例えば、統一教会に対して、根拠のない霊感商法はいけませんと行政がパンチを繰り出したら、間違ってその横にいた創価学会の鼻に当たって大出血したり、「宗教法人が得る事業所得は厳密に計算しろ」と指示を出したら檀家が減った郊外のお寺さんが仕方なく運営している駐車場の収入も厳密に決算しろみたいな話になったり、いろいろと都合が悪いというのもあります。

 統一教会は悪い組織なのだ、といっても名指しで超法規的にお取り潰しにすることが難しい以上、統一教会がやってそうな悪事を列挙し、かつそれ以外の宗教団体が手がけていなさそうなことを取り上げて「これやっちゃ駄目です」と指定できて初めて統一教会だけぶん殴ることができる、ということになるわけですね。宗教・信教の自由とはそういうものであるという。大変だ。

 そもそも、現代社会において「宗教行為は非課税」とか、あんまりみんなピンと来ねえと思うんですよ。いかれたやつが宗教やってんでしょ、みたいな認識を持つ国民も少なくない中で、地元のつながりや先祖の代から特定の宗教に入信して穏やかに慎ましく信仰を重ねている日本社会の構造を完全に可視化するのは困難です。

 厳密には、普通に真面目に取り組んでいる宗教とカルト宗教を峻別する法的な方法はありません。他人が信じていることを他人が「そんなクソみたいなもん信じやがって」と言いたくなることもありますが、国家が国民の権利として認めている信教の自由、すなわち「他人が信じてることをみだりにぶん殴ってはいけません」という仕組みを統一教会が悪用したかどうかを認定する必要があります。

 また、憲法が自由を保障しているこの「信仰・宗教行為」と、ときとして巨大権力化する「宗教団体」とは概念が異なります。