東京の満員電車解消策として「時差biz」を掲げた小池百合子知事東京の満員電車解消策として「時差Biz」を掲げた小池百合子知事(2017年4月、写真:共同通信社)

 東京都知事選が2024年6月20日に告示、7月7日に投開票される。2016年に衆議院議員を辞して都知事選に挑んだ小池百合子氏は公約に「7つのゼロ」を掲げて当選した。その中で「満員電車ゼロ」は鉄道と密接に関わる政策だが、「多摩格差ゼロ」も東京の鉄道ネットワークを大きく左右する公約といえる。今回再選を狙う小池都知事は、これらの公約を継続し、本当に実現させることができるのか──。フリーランスライターの小川裕夫氏がレポートする。

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机上の空論と指摘された「2階建て電車」構想

 2016年に東京都知事選挙に当選した小池百合子都知事は、選挙公約に「7つのゼロ」を掲げた。その内容のうち、「満員電車ゼロ」の秘策は、2階建て電車を走らせる事で輸送力を2倍にするという驚きの政策だった。

小池百合子東京都知事2016年の都知事選出馬時に「7つのゼロ」を掲げた小池百合子都知事(2017年11月、筆者撮影)

 小池都知事がぶち上げた2階建て電車は、すでに東海道本線や東北本線の一部に組み込んで運行されているが、その構造からロングシートにすることは難しく、東海道本線や東北本線の2階建て車両はすべてクロスシートになっている。そのため、通常の1階建てよりたくさんの人を乗せることができない。これでは満員電車をゼロにするどころか、余計に混雑は激化してしまう。

 JR東日本は、1992年にオール2階建ての215系という電車を登場させたことがある。これは混雑緩和を目指していたわけではなく、全ての乗客が座って移動できることを前提にしていた。つまり、移動空間の快適性向上が目的だった。だが、215系は輸送力に劣るので朝夕のラッシュ時には使用が難しく、2021年に運用を終了している。

 東海道本線や東北本線、または215系といった電車は2階建てといっても車高は変わらない。その一方で小池都知事が構想した2階建て電車は、車両の天井高を2倍にした正真正銘の2階建て。アメリカの貨物列車で導入されているダブルスタックのような方式で旅客列車を運行するという。仮に小池都知事が考えた2階建て電車を走らせるとしたら、駅のホームも2階建てに増床しなければならない。

 そのほか道路との立体交差部も高さが足りなくなって車両上部がつかえてしまうので改良する必要がある。さらに電気を供給するための架線も調整しなければならない。車高が高くなるので、これまで通りにカーブを曲がることもできなくなる。

 そのため、2階建て電車を運行するためには、施設改良で莫大な費用が見込まれるのだ。小池都知事の構想は明らかに非現実的なアイデアだったため、鉄道関係者を中心に2階建て電車は机上の空論どころか妄想とまで言われるほど手厳しい指摘が相次いだ。

 それでも満員電車ゼロは多くの有権者に訴求したことから、小池都知事は公約を取り下げなかった。2階建て電車の導入は不可能でも、時差通勤を推奨することで満員電車ゼロの達成を目指したのである。時差通勤を普及させることでラッシュ時の混雑を平準化できれば、満員電車をゼロにできるからだ。

小池百合子東京都知事2016年の都知事選出馬時に「7つのゼロ」を公約に掲げた小池百合子都知事。2期8年の成果は?(筆者撮影)