多摩ニュータウン造成で進められた鉄道整備計画だが…

 満員電車ゼロのほかにも、小池都知事が掲げた7つのゼロには鉄道と密接に関係している公約があった。それが、「多摩格差ゼロ」だ。

 多摩は居住人口こそ多いものの、23区と比べて道路・鉄道・公園・上下水道・病院といったインフラ整備が遅れていた。特にベッドタウンゆえに通勤・通学手段として日常的に使われる鉄道網の整備は焦眉の急だった。そうした背景もあり、小池都知事の「多摩格差ゼロ」には鉄道の早急な整備が含まれていた。

 多摩には東急・小田急・京王・西武などの私鉄が走っているほか、JR中央線が多摩を東西に横切る。これほど鉄道路線が充実しているのだから、鉄道においては多摩格差などないという指摘もあるだろう。

 しかし、多摩を走る鉄道路線は東西移動が多くを占め、南北移動ができる路線は圧倒的に少ない。また、中央線は御茶ノ水駅―三鷹駅間までは複々線だが、三鷹駅以西は線路が減って複線になる。このように東京23区と多摩の差は歴然としている。

 中央線が抱える諸問題のほかにも、京王線や西武新宿線などで進められている連続立体交差事業やホームドアの整備といった課題も残っている。

 そうした鉄道における多摩格差を解消する動きは、小池都知事以前からの課題だった。なぜなら東京都は1960年に首都整備局を立ち上げ多摩ニュータウン計画を始動させていたからだ。多摩ニュータウンの造成には住民の足を担う鉄道が不可欠だった。

 多摩ニュータウンは約40万の人口を想定した人工都市で、東京都が主導した多摩都市モノレールのほか京王・小田急・西武の3社が乗り入れる計画だった。しかし、多摩ニュータウンの第一次入居に鉄道整備は間に合わず、住民はバスの利用を余儀なくされる。

 なにより小田急・京王は多摩ニュータウンまでの乗り入れを実現したが、西武は未完に終わった。

 西武は武蔵境駅―是政駅間を走る西武多摩川線を延伸させ、多摩ニュータウンへと線路を引き込む算段をつけていた。ところが、当時の中央線は“殺人的ラッシュ”とも形容されるほど通勤電車が混雑を極めていた。西武多摩川線を延伸させれば、多摩ニュータウンの住民たちが中央線へと流れ込む。すると、混雑の激化は避けられないため、それを案じた行政当局は西武多摩川線の多摩ニュータウン乗り入れ計画を白紙に戻したのだ。

京王・小田急の多摩センター駅京王・小田急の多摩センター駅は多摩ニュータウンの中心的な役割を担う(2021年3月、筆者撮影)