東京都知事選で、明治神宮外苑再開発の是非が注目の争点として浮上した。現職の小池百合子氏に対抗する蓮舫氏が、公約に「立ち止まる」と明記すると、17日に読売新聞が報じた。国際的なプロジェクトから地域の再整備まで、いったん決まった事業の「中断」はネガティブなイメージが伴いがちだ。だが、法政大学の吉永明弘教授は「中断を決断したリーダーはもっと称賛されるべきだ」という。それはなぜか。倫理学の観点から詳しく解説する。(JBpress)
(吉永明弘:法政大学人間環境学部教授)
神宮外苑再開発、問題の現在地
7月7日の都知事選の争点の一つに、神宮外苑再開発がある。2021年12月の日本イコモス国内委員会の問題提起が一つのきっかけとなり、それから現在まで論争が続いている。
研究者だけでなく、多くの著名人が疑問の声を上げている点が特徴だ。
音楽家の坂本龍一、サザンオールスターズ、加藤登紀子、漫画家の安野モヨコ、ちばてつや、小説家の村上春樹、浅田次郎、椎名誠、タレントのいとうせいこう、伊達みきお(サンドウィッチマン)など、その顔触れは幅広い分野にわたる。
神宮外苑再開発はなぜここまで大きな話題になっているのか。この再開発はどこに問題があるのか。
神宮外苑再開発についてまとめられたウェブサイトには、再開発により懸念されることとして、①樹木伐採による緑の減少、②イチョウ並木が枯れる可能性、③高層ビル建設による環境悪化、の3点が挙げられている(不動産投資TOKYOリスタイル「【2023年11月最新版】神宮外苑の再開発はなぜ反対される?再開発の論点と市場への影響を徹底解説」)。
これ以外にも、この再開発にはさまざまな反対論が噴出している。
Change.orgという署名サイトでは、神宮球場や秩父宮ラグビー場に関して、建て替えではなく改修を求める署名活動が行われている。また、事業者がプロジェクトサイトで公開した、この場所に建設予定の商業施設のイメージ画像に対して、SNS上で多くの批判の声があがり、後にこの画像が削除されるということもあった(Smart FLASH「神宮外苑に「ららぽーと」計画?「緑地を破壊して作るな」SNSで吹き荒れる声に三井不動産の回答は」2023.6.3)。
今回の再開発に関して、ロッシェル・カップ氏を原告団長とする「神宮外苑認可取り消し訴訟」が継続中だが、そのホームページによれば、今回の再開発には次のような問題点がある。