認可された事業計画は本当に止められないのか?

 ①明治神宮の創建の趣旨のすり替え、②都市計画公園である神宮外苑内に巨大な建築物は建てられないがそれを手続き上可能にした都市計画変更、③ラグビー場と野球場の施設の継続性のためと説明されている2つの施設の位置入れ替えに妥当性があるのか、④神宮外苑の創設時からの庭園計画と樹木を軽視した計画、⑤都市計画変更などが十分住民に周知されていなかった等(神宮外苑訴訟団「神宮外苑訴訟」)。

 この⑤に関連して、以前に私は、この再開発は手続きの点で問題が多いことを指摘した。

黄色く色づいたイチョウ並木を見るため多くの人でにぎわう東京・明治神宮外苑。訪れた人たちはスマートフォンを手に家族や恋人と笑顔で写真を撮影していた。栃木県から友人と訪れた大学生の女性(19)は「暖かくてお出かけしやすい気温だった。まだ緑の葉もあったけど、都心で見るイチョウは光に照らされてきれいだった」と話した=2023年11月23日(写真:共同通信社)黄色く色づいたイチョウ並木を見るため多くの人でにぎわう東京・明治神宮外苑。訪れた人たちはスマートフォンを手に家族や恋人と笑顔で写真を撮影していた。栃木県から友人と訪れた大学生の女性(19)は「暖かくてお出かけしやすい気温だった。まだ緑の葉もあったけど、都心で見るイチョウは光に照らされてきれいだった」と話した=2023年11月23日(写真:共同通信社)
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 日本イコモス国内委員会による見直しの提言に対する不誠実な応答に始まり、環境アセスメントに対する事業者のアンフェアな行動(環境アセスが終了する前に着工届を提出)、新宿区による風致地区内の秘密裡の規制緩和(風致地区内に開発可能な区域を設定)など、事業者や行政には、説明責任を軽視し、環境アセスメントや風致地区という制度の趣旨を尊重しない態度が見られる(吉永明弘「都市の緑地開発問題を「倫理学」で斬る――公正、分配的正義、賢慮の観点から」シノドス 2023.04.06)。

 このような手続き論のみならず、社会科学のより大きな観点からこの計画を批判する研究者もいる。経済思想家の斎藤幸平氏は、神宮外苑のような空間は「コモン」(社会の富、共有財産)であると述べ、それが企業によって商品化されることを問題視している(斎藤幸平「「企業に商品化される神宮外苑」の大問題」東洋経済オンライン 2023.09.29)。

 これだけ多くの問題点が指摘されているにもかかわらず、再開発の方針は継続されている。ただし現在は、2023年9月に都が事業者に出した樹木保全についての見直し案要請を受けて事業者が出すはずの見直し案が遅れに遅れて、樹木伐採が保留されている状態である。

 神宮外苑再開発は都知事選の争点の一つになりつつあるが、都知事選の結果にかかわらず、事業が認可された以上、この計画は止められないという見方もあるだろう。

 この「止められない」という考えは、日本の開発事業をめぐる議論につきものである。実際に、一度決めた事業を貫徹させる目的で、はるか昔に決まった計画が(現在では不必要かもしれないのに)実行されることがある。

 近年では、そのようにしてよみがえった都市計画道路計画が「ゾンビ道路」と揶揄されている。埋立事業や再開発事業も同様に、一度決まったら覆すことは難しいとされている。