熟慮の末の「中止」判断には賞賛を
それに対して、行政の人事評価は、事業を滞りなく進めた人がプラスに評価され、事業を中止した場合にはマイナスの評価になりがちである。外部からの声に押されて中止した場合はなおさらである。そうなると、事業を中止するモチベーションとメリットが役所にはないということになる。そのような状況を改善するには、事業を中止した部署を市民や外部機関が褒め称えること(例えば表彰するなど)が必要だろう。
同じことは行政のリーダーについてもいえる。多くの問題が指摘されている政策を熟慮の末に転換することは、賢明なリーダーの条件といえるだろう。政策の転換のためには合理的な理由とともに有権者の支持が必要である。
有権者が支持を示す簡単な手段の一つとして、「政策転換の決断を称賛する」ということがあげられる。党派を問わず、リーダーが多くの問題が指摘されている政策を熟慮の末に転換した場合には、その決断を積極的に称賛すべきであろう。
疑問の多い都市再開発事業に関しては、熟慮の末に中止するという判断もありうるだろう。その場合、中止した人を非難するのは合理的ではない。
「どんな場合であれ事業の中止は失敗である」という価値観を過去のものとし、「熟慮の末の事業の中止は英断である」という価値観を社会に根付かせなければならない。ここでは市民の態度も問われてくる。不合理な判断や不正なふるまいをする事業者やリーダーを非難するのはとても大切なことだが、正しい判断や決断が行われた場合には積極的に評価し、その決断を支えることも同じくらい大切なことだろう。
*この記事の内容の一部は以下に基づいている。
けいそうビブリオフィル「開発事業に対する倫理学からの応答――DAD型から順応的管理へ」2018.7.6