小池都知事が3選出馬を表明した直後、都知事選に名乗りを上げた蓮舫氏(写真:共同通信社)小池都知事が3選出馬を表明した直後、都知事選に名乗りを上げた蓮舫氏(写真:共同通信社)

(山本一郎:財団法人情報法制研究所 事務局次長・上席研究員)

【静岡県知事選】
「リニア絶対許さないマン」として著名な浜松経済界のドン・鈴木修さんに担がれる格好で登場した鈴木康友さんが、浜松以外からの熱い期待を一身に集めていた元副知事・大村慎一さんを蹴散らす形になった静岡県知事選。

 立憲民主党と国民民主党が今回は分裂することなく鈴木さんを推薦、一方で自民党とギリギリまで判断を伸ばした公明党が大村さんを推し、そして共産党が単独で“テンプレ候補”を立てるという展開になりました。

 事前の予測では3%から5%のリードで鈴木康友さん優勢と見られていましたが、両陣営最後まで頑張った結果、事前の予測そのままの着地で鈴木康友さんが勝利した格好です。

 この結果を政党政治の文脈から言えば、「いまは自民に逆風が来ているので立憲と国民がちゃんと担げば、東京以外では共産党はいらない子である」ことと、「政治的状況もあって、ぐっすり寝ていた公明党が大村さんをちゃんと支援していたら大村さんは勝っていた」という点において、非常に示唆的な選挙であったと思います。

 公明党支持層もおおむね5割ちょっとが鈴木さん、残りが大村さん、共産その他にはほぼゼロの投票先になっていて、公明党や支持団体がもっと頑張って大村さんを担いでいたならば、投票率も2%ぐらい上がって大村慎一知事が誕生していたのは間違いありません。その点では、実に惜しい選挙だったように感じます。

 したがって、俺たちの岸田文雄さんが解散をするしないの判断にあたっては、公明党の態度が一層大きく影響するであろうことは確実です。まあ、解散はないだろうというのは、この公明党の静かなる態度とその結果を見れば……という感じですね。

 そもそも静岡の自民党は多士済々でありました。

浜松市とその周辺だけで圧勝した鈴木康友さん

 スキャンダルに見舞われて死に体になっている吉川赳さん、裏金問題で腹も切る潔さもなく離党に追い込まれた塩谷立さん、面白発言連発で辞職に追い込まれた宮澤博行さんがいるうえに、太陽光発電開発のJCサービスから5000万円借りてうやむやになっている細野豪志さん、野党・鈴木康友陣営を支える鈴木修さんの“ペット”とも言える城内実さんがなぜか自民・大村陣営の選対本部長となる駄目さ加減。

 さらには次期総裁候補の呼び声を背に、中央政界からほぼ単独で大村支援に回った地元・上川陽子さんの「この方(候補者)を、私たち女性がうまずして、何が女性でしょうか」という、やや言いがかりのような報じられ方をされて舌禍事件になってしまうなど、なんかこう、少しはまともなやつはいないのかと言いたくなるような状況になってしまったのは残念です。

 東京都民からすれば、鈴木修さんの反リニアに乗っかる形で無事に静岡県知事を勤め上げるはずだった京都人・川勝平太さんが暴言で退場した結果、まともそうな知事候補である鈴木康友さんと大村慎一さんの争いになった今回の知事選は羨ましい限りなのであります。

 リニアは東京と名古屋、大阪を短時間でつなぐ次世代大動脈という意味で関係者だけでなく都市部住民にとっては悲願と言えますが、静岡県知事・川勝平太さんにとっては「ふざけるな」の対象です。

 それでは、選挙の争点としてどうだったのかというと、どの調査でも3位以下に低迷しています。

 国富を喪失したと批判にさらされた川勝さんへの知事信任割合(中央政権における内閣支持率みたいなもの)をみると、暴言事件があっての辞任にもかかわらず、出口調査で65%前後と、割と静岡県民から支持されておるやんけ、という感じなんですよね。

 こうしてみると、東海道新幹線も割とスルーされてる感じの静岡県民からすれば、ほとんど受益のないリニア開通に対し、静岡県のはじっこだけかすめるようにして通る限り、リニアには何のメリットもないので反対というのが県民の総意であるようです。

 鈴木康友さんは、浜松市とその周辺だけで大村さんにダブルスコアで圧勝し、浜松以外の支持を得ていた大村さんに勝ってしまったわけであります。なんかこう、今川義元時代に、義元が駿河と遠江で国が分断しているのを苦心して取りまとめていたという偉業を感じる始末です。

 もちろん、元浜松市長として、スズキをバックにまあまあ無難な市政を敷いていた鈴木康友さんに期待する声もまあまああります。県庁からも「川勝さんよりははるかにマシになるだろう」とも言われており、期待しています。

 また、今回落選してしまった元副知事・大村慎一さんも、旧自治官僚にしては人格的に誠実で偉ぶることもなく、特に行政手腕のない前知事・川勝さんをよく補佐していたという高い評価もあり、ここで朽ちる人材とも思えません。

 自民党としても、塩谷さんとか吉川さんとか国政の椅子は空くでしょうし、不利な戦と分かって参戦してくれた大村さんの志と能力はきちんと買って遇してほしいと願っています。ここで終わるような人とも思えません。