核爆発を利用して軍事衛星を無力化する衛星攻撃兵器

 米ソは核爆発を利用して軍事衛星を無力化または破壊する衛星攻撃兵器(ASAT)についても研究を進めていた。しかし米ソが批准した宇宙条約によって、宇宙空間への核兵器配備は停止された。宇宙空間には核兵器やその他いかなる種類の大量破壊兵器も配備しないことが定められた。宇宙空間における核兵器の危険性が認識されたためだ。

 宇宙空間の脅威を評価する米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の報告書(昨年4月)はロシアについて米国、中国に続く3大国家的宇宙開発主体と位置付けている。ロシアはソ連時代にさかのぼる宇宙開発能力と戦力を保持する。プーチンが胸を張る防空・対衛星戦用レーザー兵器の「ペレスヴェト」や「ソコル・エシェロン」はまだ実戦配備されていない。

 ロシアの宇宙産業基盤は西側の制裁、労働人口の高齢化、腐敗、慢心に苦しんでいるとの報告もある。しかしロシアはウクライナ戦争でこれまで以上に宇宙能力と対宇宙兵器を使用した。東欧全域で増えるGPS(全地球測位システム)妨害や、衛星通信の米大手プロバイダー「ヴィアサット」やスターリンクに対する妨害もロシアによる衛星攻撃とみられている。

 モスクワは自国の衛星を使って他国の衛星に接近する軌道上での“ストーカー行為”を続けており、重大な懸念を引き起こしている。ウクライナ戦争は「初の商業宇宙戦争」と呼ばれる。スターリンクはウクライナ軍に力を与え、ウクライナ国民を外の世界とつないだ。雲を突き抜けて夜でも撮影できる画像衛星はロシア軍の動きを監視し、戦争犯罪の証拠を集めている。

 プーチンが部分的核実験禁止条約や宇宙条約を破棄すれば、宇宙空間での核軍拡競争が始まる恐れがある。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。

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