不健全な安倍・黒田体制の負の遺産

 以上を踏まえると、立民公約の良い部分はインフレ目標の柔軟性を容認しようとしていること、悪い部分は表現が極端過ぎること、である。

 繰り返しになるが、「2%」を「0%超」へ変更するという修正はいかにもタカ派的であり、植田総裁の言葉を借りれば、不連続なショックを与える可能性がかなり高く、実際のところ広範な支持は得られまい。

 では、どのように修正すべきなのか。そもそもアコードなど2013年1月までは存在しなかったのだから、(見通せる将来は厳しそうだが)政権交代の暁には廃棄でも問題ないと筆者は考えるが、あえて修正の上で残すのであれば、「できるだけ早期に」を削除するだけで問題ないだろう。

 黒田体制から植田体制に移行する際、「できるだけ早期に」の削除か、代わりに「中長期的に」と言った文言に入れ替えるという案が取りざたされていたが、結局は手つかずのままであった。既に日本が(CPIの上では)デフレ状態ではないのであれば、デフレ脱却宣言と共に葬り去るという考えもある。

 いずれにせよ、現在のアコードが不健全な状態にあることは間違いなく、これを質そうという意思表示が野党側より出てきていることは評価に値するだろう。

※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2024年10月17日時点の分析です

唐鎌大輔(からかま・だいすけ)
みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト
2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(2022年、日経BP 日本経済新聞出版)。