IMFが発表した外貨準備の構成通貨データ(COFER)を見ると、ドルの比率は58.22%と過去最低値を更新した。そんなドルの代わりに台頭しているのが、カナダドルや豪ドル、人民元である。堅調なドル相場をよそに、外貨準備でのドル比率の低下は何を意味しているのだろうか。(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)
ドル比率は過去最低を更新
9月30日、IMF(国際通貨基金)から外貨準備の構成通貨データ(COFER)が公表された。為替市場を中長期的に展望するにあたって重要なデータであるため、筆者は定期的に観測している。
世界の外貨準備は、2024年6月末で前期比▲36.2億ドルの12兆3474億ドルと微減だった。今年4~6月期に関して3月末と6月末で比較すると、名目実効ドル相場(NEER)は約1.8%上昇した。その分、世界の外貨準備に占めるドル比率は価格効果もあって嵩上げされた可能性が推測される。
ただ、実際は今回のCOFERデータで目を引いたのはドル比率の低下だった。2024年6月末時点のドル比率は前期比▲0.70%ポイントの58.22%と、2023年12月末時点に記録した史上最低値(58.42%)を更新している。
2020年12月末以降、ドル比率は2022年9月末を除いた14四半期で60%を割り込んでいる。2020年12月末時点で60%を初めて割り込んだ際は大きなニュースになったものだが、もはやそれが新常態になっている感はある。
常に80%弱を誇っていた2000年代初頭と比較すれば、四半世紀を経て外貨準備運用の世界に新しい潮流が根付いているのは間違いない。
この背景として、「ロシアのウクライナ侵攻以降、西側陣営による各種制裁が長期化することで、外貨準備運用における非ドル化の機運が定着している」という説は常々指摘されているが、それだけとは言い切れない。
図表①で示すように、ドル比率の低下は基本的に1999年以降続いてきた長期トレンドである。この背景としては恐らく世界のGDP(国内総生産)における米国のシェアが低下している事実などが指摘できる。
【図表①】
もっとも、後述するように、ドル比率の低下傾向とドル相場の下落傾向が必ずしも一致しているわけではないため、巷説で囁かれるようなドル暴落説に与(くみ)するつもりは全くない。
ただ、為替・債券・株式市場において、米国が依然として圧倒的な存在感を示している現実に照らすと、世界の外貨準備で起きていることは若干不気味でもある。統計で可視化されにくい部分で着々と非ドル化が進み、世界経済の分断も合わせて進んでいると考えておいた方がいいということだろう。