外貨準備の円比率が基調的に上昇しているのはなぜか?

 人民元がSDRに入ってきたため、COFERにおける「比率」としてのドルは低下を余儀なくされるが、中国の問題ある立ち振る舞いもあって、人民元が国際経済の舞台において存在感を高めることにはならなかった。

 結果、価値尺度や交換の手段としてのドルは依然強大な存在であり続け、2015年以降はリーマンショック後の傷痕が癒えて、金融正常化に向かう過程でドルの価値が見直される局面に入っていったというのが無難な理解ではないか。事実、もう10年以上、ドルのNEERは上昇基調にある。

 この点、円比率だけに着目すると前期比▲0.1%ポイントの5.59%で4四半期ぶりに前期比で低下している。しかし、4~6月期と言えば、円の対ドル相場が151円付近(3月末)から161円付近(6月末)まで急落した時期であり、価格効果に鑑みれば、比率は大幅に低下しても不思議ではなかった。わずか▲0.1%ポイントの低下幅にとどまったという印象はある。

 実は円比率は2022年6月末以降、基調的に上昇している。これは今回の円安局面が始まった時期と符合している。

 COFERデータが基本的にドル建ての議論である以上、今次円安局面を受けて円比率は本来低下しそうなものだが、逆に概ね上昇しているのは興味深い。「円の安値を拾いたい」というリザーブプレーヤーの存在などが疑われるところだ。

 ドル比率が低下する中でドル相場は堅調であるのに対し、円比率が堅調である中で円相場は下落しているという差異も分析テーマとしては面白さがある。その通貨の価値というのは外貨準備構成通貨における存在感、言い換えれば価値保蔵機能だけからでは決定されないということがよく分かる。

※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2024年10月4日時点の分析です

唐鎌大輔(からかま・だいすけ)
みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト
2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(2022年、日経BP 日本経済新聞出版)。