米国のハーバード大学(Pixabayからの画像)

DEI撤廃、パレスチナ支持粉砕に躍起

 米国のドナルド・トランプ大統領は、米国内の大学に対し、 

①「多様性(Diversity)・公平性(Equity)・包括性(Inclusion)=DEI」を重視した入学選考基準や教育プログラムの見直し、

② パレスチナ自治区ガザを攻撃するイスラエルに抗議する学生運動の取り締まり強化、

③反米国的な価値観を持つ学生に関する報告の提出、

 などを求め、これに従わない大学に対し、教育・研究資金支援の削減を進めると言い出した。

 トランプ氏は大統領就任と同時にDEIを直ちに廃止する大統領令を出しており、その実施に踏み切ったのだ。

 これを受けて、国防総省はじめ各政府機関はDEIを即刻廃止、「フェイスブック」や「インスタグラム」を運営するメタも雇用面でDEIを廃止した。

 トランプ氏はこの政策を私立大学や研究機関にも要求した。これに真っ向から反発したのがハーバード大学だった。

 ハーバード大の行動に、東部、中西部、西部の大学18校からなる「ビッグテン・カンファレンス(Big Ten Conference)」(1896年の創設当時は10校だった)がハーバード大全面支持とトランプ批判を表明した。

 ビッグテン・カンファレンスはミシガン大学、ノースウェスタン大学、ラトガーズ大学、UCLA、南カリフォルニア大学などスポーツの強豪校がメンバーの大学スポーツ連盟で一般大衆への影響力は絶大だ。

Big Ten universities unite against Donald Trump's education attacks

アメリカ合衆国より古いハーバード大学

 ハーバード大はアメリカ合衆国建国前の1636年に創立された米国最古の大学で、長い伝統と実績を誇る最高教育機関だ。

 同大学はアイビーリーグ8校のトップとして学問、見識、リーダーシップを備えた学生を育成し、大統領7人、英詩人T.S.エリオット、経済学者ポール・サミュエルソンらノーベル賞受賞者162人を輩出している。

 また、建学の際に物心両面から貢献したピューリタン(清教徒)のジョン・ハーバード師の名前を校名にしており、キリスト教主義の校風から一般にはリベラル派の拠点と見られがちだ。

 だが、保守派の卒業生も多く、現在上院には実力者のテッド・クルーズ氏(テキサス州選出)、共和党大統領候補だったミット・ロムニー氏(ユタ州選出)ら8人の共和党がいる(民主党議員は6人)。

 現在の学生数(学部、大学院合わせて)は2万4596人、教授スタッフは2万667人、卒業生は世界中に40万人以上いる。

 米国の知性主義の頂点に立つハーバード大は、米国の政財学界に幅広く人脈を張り巡らしている。

Harvard alumni elected to the 117th Congress | Harvard Magazine

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 その天下のハーバード大にトランプ氏が挑戦したわけだ。

 トランプ氏は学歴的にはアイビーリーグのペンシルベニア大学ウォートン・スクール(大学院ではなく学部)卒業だ。

 しかし、米主要紙の政治記者は異口同音に「トランプ氏は東部エリートの片鱗も全く感じさせない反知性的人間で、ハーバード大には異常なほどの劣等感がある」と言う。

 これまで刊行されたトランプ本では、トランプ氏自身友人に「大学の授業はほとんど行かず、父親に付いて不動産業を習得していた。学歴が欲しいだけだった」と述べている。

 ところで、ハーバード大の学生を人種別(ヒアリング結果)で見てみると、以下の通りだ(2024年度新入生、複数回答あり)。アジア、黒人、ヒスパニック系が他のアイビーリーグに比べて多い。

白人:53.1%
アジア系:23.6%
黒人:15.7%
ヒスパニック系:13.4%
南アジア系:8.3%
ネイティブアメリカン:0.9%
太平洋諸島系:0.6%

The Harvard Crimson | Class of 2025 By the Numbers

 この点もハーバード大のリベラル色を濃くしている。

 現在のアレン・ガーバー学長(経済学博士、医学博士)はじめ大学理事会(メンバー30人)もリベラル派が多数を占めていることからトランプ氏はハーバード大を民主党リベラル派の巣窟とみなしていたようだ。

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