象徴的だったのは、最初の出馬表明の時の演説。数えてみたのですが、進次郎さんは1分間で15回とか20回とかという頻度で手元の原稿を見ているんです。他の候補よりも圧倒的に見ている。要するに、政策が借り物で自分の言葉になっていない。チームに囲われて、フィルターバブル(見たい情報しか見えなくなる状態)みたいになっちゃったという感じがしました。

 批判を浴びた解雇規制の見直しは、実は世論調査を見ても、それ自体が不評な政策だったわけではないんです。ただ、それを唱える小泉さんの討論の不安定さが不評だったということだと思います。

「一回目から高市に」の支持が裏目

山本 そういった候補者の主義主張や政策が党員票や議員票の数に影響した部分もあるけれど、もう一つ、今回は“派閥解体”後の初の総裁選ということで、どの議員がどの候補の支持に回るのかというところにも関心が集まりましたよね。派閥は麻生派を除きなくなったとはいえ、緩やかなグループは依然としてあったわけですし……。

米重 投票日前日の夜、産経新聞が「麻生さんが一回目の投票から高市さんに投票するよう麻生派の議員に指示を出した」と報道しました。河野太郎さんや上川陽子さんという派内から出た候補や、派が推薦人を多く出した候補がいるにもかかわらず、本当に高市さんに全振りしたのだとすれば、勝負に出たわけです。そして一回目の投票ではその高市さんが見事にトップに躍り出た。ところが決選でああいうかたちで石破さんが逆転した。このあたりの動きを山本さんはどう見ています?

山本 今回の総裁選は麻生太郎、菅義偉、岸田文雄の3人の首相経験者によるキングメーカー争いの面もありました。その中で、ギリギリの場面で麻生さんはわざわざ「高市だ」とマスコミに漏れるような形で指令を出した。それが結果的に裏目に出たのでしょう。「また麻生かよ、高市で行くのかよ」と面白くなく思った議員も多かったと思います。

山本雄史氏(写真:小檜山毅彦)*9月17日撮影
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 同じように旧岸田派も投票日前日に、「決選投票は石破vs高市だろう」と見越して、「決選は石破で」という方針を固めました。決選投票では、その方針に旧宏池会の林芳正さん陣営も乗ったし、森山裕さんや菅前首相も乗ったと見られます。

 一方、高市さん側には、少し意外ですが加藤勝信さんの陣営が乗ったとされている。また茂木陣営では衆議院議員は高市さんに、参議院議員は石破さんに、と割れた対応をした。

 旧派閥や首相経験者が束ねるグループが大きな方向性を示したうえで、最終的には個々の議員が判断して票を投じました。そういう意味では、これまでの総裁選に比べて票読みが難しくなったのは間違いない。