米重 高市さんは総裁選の期間中、「総理大臣になっても靖国神社に参拝する」など、支持基盤の右派の層に対する“ファンサービス”に勤しんできました。それはその層の人たちには響きますが、しかしそんなに旗幟鮮明にしてしまったら仮に総裁選で勝利しても政権を担い続けるのは難しい。現職の国会議員であればなおさら「本当に総理大臣が務まるのか」と心配したはずです。

米重克洋(よねしげ・かつひろ) JX通信社代表。1988年生まれ。大学在学中の2008年に報道ベンチャーのJX通信社を創業。世論調査の自動化技術やデータサイエンスを生かした選挙予測・分析に加え、テレビ局や新聞社、政府・自治体に対してAIを活用した事件・災害速報を配信する『FASTALERT』、600万超DLのニュース速報アプリ『NewsDigest』も手がける。著書に『シン・情報戦略 誰にも「脳」を支配されない 情報爆発時代のサバイブ術』(KADOKAWA)がある(写真:小檜山毅彦)*9月17日撮影
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 特に北朝鮮問題や対中国への向き合いを考えた時、岸田政権が進めた韓国・尹錫悦政権との関係改善や、日米関係にも悪影響が必至です。日韓・日米関係が離間されて、得をするのは誰なのか? どの国なのか? ここを考えれば、過去の発言が足かせになるのは間違いありません。安倍氏ですら、首相在任中の靖国参拝は1回だけ。日本の安全保障や国益を考えた政治判断でした。

山本 ハッキリ言えば高市さんは右に寄り過ぎた。これは自民党員全体、ましてや世論全体の中で見れば支持層は広がらない。しかも野党からみれば極めて攻撃しやすい相手です。

「政治とカネ」の問題を甘く見過ぎた

米重 それから今回重要だったのは「政治とカネ」の問題です。われわれJX通信社も日本テレビの党員調査に協力しましたが、この調査結果を見ると、党員は「政治とカネ」で政治への不信感を非常に強めている。特に党員の本当にコアな人たち――「岩盤保守層」と自称するような人たちではなく、本当に地域に根付き、自民党統治の一端を担っているような党員が、不透明な政治資金の問題に対して本気で憤っています。彼らの多くは「党は信用できない」「裏ガネ議員は選挙で非公認にすべし」といった厳しい意見を持っている。

 高市さんはこの部分は脇に置いて、自分の党内支持層を固めることには奏功しました。しかし「その後」が見えなかった。世論の「政治とカネ」の問題への強烈な不信感を軽く見ているフシがあるように感じました。推薦人にはいわゆる裏ガネ議員がたくさんいたし、そうした議員を「裏ガネ議員ではなくて不記載のあった方」と言ってみたり……。そういう部分で、結局最後まで内向きの発信ばかりでした。

9月27日、自民党総裁選を終え、記者団の取材に応じる高市早苗氏(写真:共同通信社)
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 仮に高市さんが総裁になって、そのまま総選挙に突入したら、選挙で負ける。そう思った議員は多かったでしょうね。