岸田文雄首相(写真:共同通信社)
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(朝比奈 一郎:青山社中筆頭代表・CEO)

 間もなく終わりを迎える岸田政権ですが、目玉政策のひとつが「異次元の少子化対策」でした。2028年度までに新たに毎年約3.6兆円の関係予算を付けるとされている対策で、対GDP比で、世界トップレベルのスウェーデン並みになるという試算もあり、数字的にはまさに「異次元」ですが、これで我が国の少子化問題が解決するだろう、という話は聞こえてきていません。

政府の担当者も3.6兆円で少子化が改善するとは思っていない

 これまでも、幾度となく少子化対策は施されてきており、そのたびに、威勢のいい言葉が躍ってきました(出生率1.8を達成するとした安倍政権の「新三本の矢」の一つ〈2015年9月発表〉など)。一時的に改善したように見えた時期もありましたが、本質的には、むしろ少子化は加速してしまっています。

 そしてついに2023年、東京の合計特殊出生率が0.99という衝撃的な数字になりました。俗に「0.99ショック」と呼ばれるものです。国全体の合計特殊出生率も1.26で、一度は底を打って上昇傾向にあるように見えていた数字がまた急激に落ちて、厳しい現実を私たちは突き付けられました。

 以前から指摘されてきたことで、私もそう思っていましたが、団塊ジュニア世代の動向に注意する必要があります。今年は同学年で200万人以上いる団塊ジュニアの中核である昭和49年生まれの人々が50歳になる年です。この団塊ジュニアというボリュームゾーンがもう子どもを産む歳ではなくなったので(50歳を超えて出産する女性もいますが、ほとんどいない)、ある意味、予想されていた現実でもありました。そして数字的には、これから少子化のペースがさらに上がってしまう可能性が大きいということになります。

 そういう現実の中で、新たに毎年3.6兆円を加える形で「異次元の少子化対策」を実施したからといって子どもが増えるかと言えば、実は政府の担当者もそう簡単だとは思っていません。少子化を多少食い止める効果はあっても、反転して増やすところには行かないと、私の知る政策担当者たちも感じているのが現実です。少子化対策には、もっと根本的な解決策が必要だということを、みな身に染みて感じています。

 私の知る政府の担当者は、年額で新たに3.6兆円という金額は、子どもを増やすには全然足りないと感じています。

 たとえば「子どもを産んだら1000万円~2000万円を支給する」くらいになれば多少インパクトはあるかもしれませんが、そうでもしない限り、産休時や育休時の所得補償が充実したり、児童手当が充実したりする程度で子どもが増えるとは誰も思っていないのが現実です。これ以上の少子化を食い止める効果が多少あるくらいでしょう。

 マイナスをゼロに、ゼロをさらにプラスに持って行くには、かなりのインパクトが必要です。バラマキと批判されようが、子どもにいない人たちに白い目で見られようが、仮にお金をかけるならそれくらいやらなきゃだめだという議論です。