例えば、東京には大学などが多いこともあって、まだ子ども産もうとしていない女性(典型的には高校を出たばかりの女子大生)が数多く生活しています。出生率を計算する際の分母にそういった女子大生たちまで含まれると、当然、東京の出生率は低くなってしまいます。

 しかし結婚している女性の出生率、すなわち上記の「有配偶出生率」を見てみると、東京在住の既婚女性は比較的たくさん子どもを産んでいる実態が浮上してきます。東京で出会って、子どもが出来たら、郊外の埼玉や神奈川や千葉などに居を構える人たちも少なからず存在します。私の両親などもまさにそうでした。私は6歳まで東京の団地暮らしで、その後、埼玉のニュータウン(親から見れば夢のマイホーム)に移住した過去があります。

【15~49歳女性人口千人当たり出生数(2020年)】出所:財務総合政策研究所 外部有識者等による研究所内講演会 中里透・上智大学経済学部准教授「東京は『ブラックホール』なのか 少子化と出生率について考える」(令和6年5月28日)より
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 そうした人たち(子どもが生まれた後に近隣県に移住する者)は、都道府県別の出生率において東京の数字には貢献しませんが、実は東京は、配偶者との出会いの場としての機能などからも、人口問題に関して貢献しているとも考えられます。

 中でも少々意外なのは、都心3区と呼ばれる千代田区・中央区・港区に住む既婚女性が全国平均以上に子どもを産んでいる実態です。そうやって見ると「東京はブラックホールだ」というのはちょっと乱暴な議論と言えますし、そもそも東京から地域に人を移せば少子化が改善するという主張もかなり怪しくなってきます。一般論として、所得と子どもの数における正の相関関係の存在も言われているところであり、所得の高い東京は、子どもを意識しやすい場所とも言えます。

【東京都区部の有配偶者出生率(2020年)】出所:財務総合政策研究所 外部有識者等による研究所内講演会 中里透・上智大学経済学部准教授「東京は『ブラックホール』なのか 少子化と出生率について考える」(令和6年5月28日)より
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出産・育児における障害を取り除いても

 ふたつめの対策が、出産・育児を阻害している“トゲ”をどんどん抜いていこうというものです。

 たとえば「男性が育休を取りにくい」とか、「女性が育休から職場復帰したときにポストがない」とか、「出産・育児に関する自治体の手続きがワンストップサービスになっていなくて大変だ」とか、子どもを産み育てる人が感じる“トゲ”がたくさんあるので、それをひとつひとつ抜いていこうというものです。

 今回の「異次元の少子化対策」も広い意味では、この「とげ抜き」の作業とも言えますが、それをよりもっと本格化させよう、というものです。広い意味では、治安の悪化などを招かないように慎重に、海外の優秀層を日本に連れて来て、新たに「日本人」になってもらおう、ということも、そのための様々な制約を取り払って行こうという動きも(ベビーシッターの入国を容易にするなど)、この「とげ抜き」の一環とも言えます。

 もちろんこれはこれで大事なことで、現に政権も進めてきているところですが、これまでの結果が証明しているように、急に大きな成果は見込みにくく、それらが仮に実現したからと言って、出生率が急に高くなるわけではありません。

 そして、私が一番議論したいのが3番目の対策です。