メディアのインタビューに答える自民党総裁の石破茂首相=2025年7月20日、東京・永田町の党本部(写真:共同通信社)
事実上の政権選択選挙となった参議院議員選挙では与党の自民党・公明党の与党が大敗、過半数割れとなり、国民民主党や参政党という新興の保守系政党が大きく議席を伸ばした。政界に巨大な地殻変動をもたらすこの選挙での各党の戦いぶり、戦略はどのようなものだったのか。元産経新聞記者で現在は永田町でロビイストとして活躍する山本雄史氏と、世論調査や選挙予測も手掛けるJX通信社代表の米重克洋氏に解説してもらった。(司会:JBpress編集部)
予想されていたほど自民党の負けが込まなかった理由
――今回は前回、前々回の参院選に比べて投票率が上がりました。
米重克洋氏(以下、米重) 投票率の上昇は若い世代の関心の高さが影響していると思います。事前の世論調査を見れば、NHKや朝日新聞でも、50代以下の現役世代で前回よりも関心が高いという結果が出ていました。そこから考えれば、若い世代がやはり選挙に関心を持って、その人たちが投票所に行ったことが6ポイント以上の投票率上昇につながった大きな要因と考えるべきかと思います。
その結果として、現役世代に支持の足場がある国民民主党と参政党が比例票を伸ばした。かつ国民民主党に関しては、東京で2議席確保という結果につながったのでしょうね。
山本雄史氏(以下、山本) 投票率は60%には届いていないので、ことさら「高い」というほどでもないのですが、投票率が伸びたことで参政党や国民民主党が躍進、チームみらいも1議席を確保しました。逆に票が伸びなかった既成政党は、はっきり言えば従来は20~30代を軽く見る傾向があった。「どうせ選挙に行かないよね」「人数的にも多くないし」ということで優先度を低く見ていたのは間違いないんですよね。その層を狙いにいっていなかったことが惨敗や伸び悩みにつながっている。
今後の選挙は若者層の軽視という傾向は改められていくことになるでしょうね。その意味で、今回の参院選は大きな転換点になったと言えます。
――そうした中、自民党は「惨敗」しました。ただ、事前に予想されていた議席数に比べれば盛り返した、という声もあります。
米重 報道各社の情勢判断に比べれば、1人区での負けを若干減らしたところはありましたね。各社の情勢調査を見ると、中には自民の候補が優勢な1人区は4つだけと伝えていたケースもありました。もちろん接戦区も多かったわけですが、実際は自民14勝ですから、押し戻したり、逆転したケースも多少あったと思われます。それでも1人区は全部で18あるので負け越しではありますが……。
そして複数人区では、参政党が伸びた影響で大阪などの“指定席”を落としています。結果、自公で非改選を含めてもなお過半数にさえ届いていないので、全体で見たときはやはり「大惨敗」としか言いようがないでしょうね。
山本 1人区で14勝というのは意外に悪くはない。事前の情勢調査では惨憺(さんたん)たる数字が出ていました。自民党内では「ここは負けている、ここも負けている」「もうこれはおしまいだ」となったはずです。
そのとき自民党は「もうしょうがない」とはなりません。「このままじゃまずい」となる。自民党というのは町議会議員、市議会議員、都道府県議会議員がそれぞれ縦のラインでつながっているわけです。そこが一生懸命になって、候補者のために動員をかける、電話する、集会を開く、候補者も必死になるということが起きる。ギリギリの運動量が増えるんですよ。
私のところにも某国会議員から「決起集会に出席してください」と連絡がきたくらいなので、相当運動したはずです。1人区の競り勝ちは、自民党の最後の運動の力だと思います。地力ですね。危なくなった時の自民党はしぶとい。