YouTubeでさまざまな番組を配信しています。チャンネル登録をお願いします!

6月22日に行われた東京都議会議員選挙――。知事与党の都民ファーストが第一党となったが、自民党は30議席から9議席も減らし惨敗、「全員当選」を期して22人を擁立した公明党は3人が落選という厳しい結果となった。一方、台風の目となると思われていた石丸伸二・前安芸高田市長が立ち上げた「再生の道」は42人が立候補したが全員落選という憂き目に。いくつもの波乱があったこの都議選について、元産経新聞記者で、現在は永田町でロビイストとして活躍する山本雄史氏、JX通信社代表の米重克洋氏に語り合ってもらった。(対談は2025年6月23日に実施)

なぜ「再生の道」は波に乗れなかったのか

――参議院選の前哨戦として注目された今回の都議会議員選挙ですが、結果は都民ファーストの会が第一党となり、自民党は大敗しました。まずは注目されていた石丸伸二氏が代表を務める地域政党「再生の道」の結果についてお話をうかがっていきたい。

米重克洋氏(以下、米重) 率直に言って、予想通りの結果になってしまったかなと思います。ゼロ議席だったわけですが、2つ大きなポイントがありました。一つは再生の道が有権者に選ばれる材料を提供できなかったということ、もう一つはそれでも取れるであろう複数人区に候補者を立て過ぎたということの2つがあると思います。

 まず前者についてですが、選挙の情勢調査・世論調査をやるときには、候補者を有権者が選ぶ理由を聞きます。そこで有権者が挙げるものは、だいたい3つしかないのです。1つは支持する政党の候補者だから。もう1つは人柄が良いから。3つ目に政策が支持できるから、です。

 基本的には、この政党・政策・人物の3つに、候補者を積極的に選ぶ理由は収斂します。ところが、再生の道の今回の状況は、そのいずれにおいても難しかった。

 まず政党についてはできたばかりですから、まだ全く「再生の道」という名前が浸透していない。もちろん石丸さんの名前を知っている人は多いけれども、再生の道の認知度とはイコールではない。政党で選ばれるのは、その点でちょっと厳しい。

 じゃあ政策はと言うと、そもそも掲げていない。あえて政策は出さない、出すべきでもないというスタンスでした。その代わりに、二元代表制の下での議会と首長の関係についてチェック機能をしっかり果たせるように提示をしていくということを訴えているわけですけど、やはり有権者からすると政策で選びたいわけです。「物価が高い」とか「教育どうにかしたい」とか、いろいろな課題で選びたい有権者に対して選ぶ手がかりを与えていなかったというのは否めないと思います。

「再生の道」の石丸伸二代表(写真:共同通信社)

 3つ目の人物・人柄の部分ではどうか。石丸さんは、仕事ができる人を選んだ、非常にハイクラス人材であり、能力が高い、ぜひ人物を見てほしいという趣旨の説明をしていました。こうした話は演説でも繰り返しされていましたが、人物像については、地元で長く活動している他党の議員の方がよっぽど地域の中で知られているわけです。

米重克洋(よねしげ・かつひろ) JX通信社代表。1988年生まれ。大学在学中の2008年に報道ベンチャーのJX通信社を創業。世論調査の自動化技術やデータサイエンスを生かした選挙予測・分析に加え、テレビ局や新聞社、政府・自治体に対してAIを活用した事件・災害速報を配信する『FASTALERT』、600万超DLのニュース速報アプリ『NewsDigest』も手がける。著書に『シン・情報戦略 誰にも「脳」を支配されない 情報爆発時代のサバイブ術』(KADOKAWA)がある

 となると、政党でもない、政策でもない、人物でもない、いったい何で選べばいいのかっていうのが有権者の普通の心象風景だったと私は思います。マーケティング的に言えば「選ばれる材料」を何ら提供しなかったというのが、再生の道の都議選における妥当な評価ではないかと思っています。

 それから杉並区や世田谷区では、定数6の選挙区に3人を立てたり、8人の選挙区に2人立てたりということがあった。こういうところで1人に絞っていれば、当選ラインには届いていました。ですから、これだけ積極的に選ばれる理由がなくても、一定数いる石丸ファンの支持層を固めれば、当選圏内に入れる選挙区もあったんですが、無謀な擁立によって当選の可能性を自ら打ち消してしまった。ですからゼロ議席というのもしょうがないよなという感じがします。

――石丸さんが昨年の都知事選の時に大ブームを巻き起こした時には、その選挙運動のやり方がすごく上手だったと言われました。SNSと街頭演説の両方を使ったハイブリッド型の選挙運動を駆使して、それが功を奏したと言われた。今回の再生の道の選挙の進め方――その候補者の立て方もそうだし、それから街頭演説の場所の選び方もちょっとこうチグハグだったっていうようなことも一部で指摘されていますが、再生の道の今回の選挙戦略について、山本さんはどうご覧になられましたか。

山本雄史氏(以下、山本) 先に説明をしますと、私は都民ファーストの北区のこまざき美紀さんの選対本部長として選挙運動をやってました、中の人として。今日はその経験を踏まえて話しますが、当初、再生の道は脅威だったんです。3月、4月ぐらいに会議をしたとき、「やっぱり再生の道が出てきたら大変だよね」と。選挙区ごとに候補者の選考結果が出ていましたよね。そこで「(北区には)どんな候補者が来るんだ?」ってかなり警戒していました。そうしたらたまたま北区は候補者がいないから、ホッとしたみたいな。それほど警戒していたんです。

山本雄史(やまもと・たけし) ロビイスト。1978年、大阪府岸和田市出身。早稲田大学社会科学部卒。産経新聞政治部記者、同社新規事業部門の管理職などを経て、2023年2月にロビー活動専門会社「ヤマモト・ストラテジック・ソリューションズ合同会社」を設立し、上場企業やスタートアップを中心に永田町・霞が関対策、自治体セールスをサポート。法律改正や規制緩和を与野党の有力議員人脈を通じて実現している

 再生の道の戦略・戦術については言及できる材料は特段ないんですが、強いて言うなら、昨年の東京都知事選では藤川晋之介さんという従来型選挙に非常に詳しい参謀が石丸さんの陣営にいたのですが、今年亡くなられた。それで、再生の道がイメージしている選挙戦があまりできてなかったんじゃないかなという気はしています。

 お金があったり、人が揃っていたりしても、選挙は実際に選挙期間中に動かないとダメなんですよね。従来型の選挙を知ってる人がいるとだいぶ動き方が変わるんです。その意味では、藤川さんが亡くなられたっていうのも非常に影響したんじゃないかと、個人的には思っています。