――ちょっと先の話ですが、参議院選挙の選挙戦略について、石丸さんが仕切り直しを考えれば、参院選の展開も変わってくる可能性もありますか。
米重 石丸さん自身がおっしゃっているのは、地方議会では二元代表制がテーマなんだから政策を掲げるのはおかしい、あくまでチェック機能が優先だと、こういう話なんですね。ところが参院選というのは参議院なので、ここでは政策を掲げると彼も述べています。その対象として、例えば公教育を立て直す、そこに投資をしていくことを訴えていこうというのが、彼の説明です。
そういうことでいうと都議選と参院選の違いを、彼の中で整理をし、それで臨んでいるんだろうと思いますので、そこはまだ選ぶ手がかりが「政党、政策、人物のいずれにおいても何もない」という都議選の状況とは異なると思います。政策という軸で、教育というテーマであれば「再生の道」という選択肢を見いだす有権者も出てくると思います。
ただ、一方で考えなければならないのは、選挙はアナウンスメント効果が非常に大きいということ。つまり選挙の結果が、その後の支持率や党勢に影響を及ぼす度合いが大きいということです。
例えば2023年には統一地方選挙がありました。その時に全国でかなりの議席を増やし、首長ポストをとった日本維新の会が、野党第一党であった立憲民主党を上回る勢いで支持率を上げて、一時期は野党第一党の座を窺う存在として期待されていました。
それ以外にも、例えば2024年、去年の衆院選の時には、国民民主党が議席を4倍に増やしました。その「4倍に増やした」ということをもって、さらにその後の報道各社の世論調査では国民民主党の支持率が立憲民主党を上回るという勢いが、つい最近まで続いていた。
やはり選挙結果は、それを見た有権者が、「自分もこの政党のことを支持できるかも」と思って支持する、そんな態度が変わりやすい非常に重要なきっかけになるんです。そういう意味でも都議選は非常に大きな選挙で、参院選に対するアナウンスメント効果も非常に大きいということは否定しがたいものがあります。今回そこでゼロ議席という結果が出てしまったのは、再生の道の参院選における戦略にも悪影響があります。ほろ苦いデビューになってしまったんじゃないかな、というのが私の見方です。
小池特別顧問の活発な運動で都ファ陣営、引き締まる
――それに対して、山本さんが関わられた都民ファーストの会は今回、大勝利と言っていいんですかね?
山本 そういう受け止めになっていますね。陣営全体として。
事前に出回った報道各社の世論調査では、都民ファーストはそんなによくはなかった。それもあって都議選期間中の9日間、都知事がかなり精力的に回られた。選挙本番で動きをぐっと作った感じでしたね。
本番前はほとんど都民ファーストとしての動きっていうのはそんなになかった。それぞれの局地戦だけだったんです。それぞれの陣営で頑張れみたいな。本番になった途端ですね、次々に指示が来て、最後はキャッチフレーズ、「今こそやっぱり都民ファースト」っていうのを広げるということになって。これが結構広がった(笑)。
いや、広がったかどうかはともかく、陣営の中での共有感が出たので、その辺はやっぱり小池さんは特別顧問とはいえ、実質的な党首として振る舞われて動いたという印象ですね。

――小池さんが動くことで陣営も引き締まったという感じですか。
山本 小池さんは一日で多いときには12~13カ所で応援に入って、しかも他党まで行くわけです、公明党とかにも。これは都民ファーストの人からしても「えー」っていうのも最初はあってですね。その都知事の動きが、いろんな意味ですさまじい刺激とインパクトを各陣営に与えるんですよね。
するとやっぱり引き締まりますし、都知事が来ると警備体制も厳しくなる。そういう実務面で陣営が動くと、それが投票行動に結びついているかどうかはさておき、応援している支持者や陣営、候補者本人の熱の入り様が変わるんですよ。これは一定の効果があるんです。
米重 明確にあると思いますね。東京においては、私はよく「小池ラベル」という言葉を説明に使っています。自民党だ、立憲民主党だという支持政党の軸よりも、「小池知事を支持するか、しないか」によって、都内の地方選挙の投票行動が決まってくる部分は結構ある。今回で言うと、小池都政を支持するという人は、知事与党の都民ファーストを支持する割合が高いですし、一方で知事を支持しない、都政を評価しないといった人たちは、どちらかというと都政野党のポジションである立憲民主党とか共産党などに行く流れが多いわけです。
ですから「小池ラベル」というものは今回も健在だったし、おそらくそのことを都民ファーストの会の陣営もよく認識していて、知事をフル稼働させたのではと思います。ここは4年前の都議選とは違いましたよね。4年前は、知事にどことなく自民党に気を使っているような雰囲気があって、都議選の前の記者会見でも、都民ファーストを応援しますといったことは、記者が言わせようとしても言わなかったぐらいだった。
まして集会などにもあまり来ず、選挙戦に入ると体調を崩された。最終盤、本当に選挙戦の最終日に、声も出ない状態で各陣営の事務所をただ回って激励していく。こういうことをやって、下馬評では「8議席だ」「10議席だ」などと言われたのに、ぐっと31までいくという形で「小池ラベル」の存在が認知された部分がありました。
今回はそれを圧倒的に上回る活動量、発信力を小池さんが発揮したので、とても気合が入っていたように見えましたね。都議選のかなり前の時期から、都民ファーストの候補者の集会にも顔を出されていましたし。