会談を前に日銀の植田総裁(左)と握手する高市首相(写真:共同通信社)
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(渡辺 喜美:元金融担当相、元みんなの党代表)

高市内閣によるパラダイム大転換

 今年は「自民・維新」の連立が、「自民・国民」に組み替わるかもしれない。衆議院で過半数を握ろうとも、参議院では過半数に達せず、その議席数は次の参院選がある2028年まで変化がないからだ。国民との連立なら、参院でも過半数を得る。国会の生中継を見ていれば、高市早苗総理と玉木雄一郎代表の相思相愛ぶりがよく分かる。

「年収の壁」を巡る合意書に署名した高市首相(右)と国民民主党の玉木代表(写真:共同通信社)

 その玉木代表の質疑でも出てきたが、サナエノミクスは上手くいけば、日本の成長率を画期的に押し上げるだろう。潜在成長率(資本投入・労働投入・全要素生産性)を飛躍的に高め、長い低迷経済からのテイクオフ(離陸)となれば画期的だ。丙午(ひのえうま)の丙は燃える太陽の強い輝き、パワフルで情熱的。午は夏の盛り、陽気さを表す。

 その兆しは、高市内閣になって初めて開かれた月例経済報告にあった。そこで高市総理が語ったことは、外交力・防衛力と一体となった経済対策を考えることだった。

 これは前代未聞の総理発言である。

 今年度補正予算や新年度予算案を一貫して流れる安全保障関連の危機管理投資と、AI・半導体・量子・造船・宇宙・サイバーセキュリティ等17項目の成長分野は表裏一体。

 ありていに言えば、国家が主導して防衛費・補助金・交付金・投資減税などにより経済を支える「軍事ケインズ主義」と、インターネットや衛星・GPS、ドローン等の軍事技術を民生利用してきた「軍民デュアルユース」の発想を「顕教戦略」として表明した、と言ってよい。

 戦後日本が封印したパラダイムの大転換なのである。

 潜在成長率のグラフ(図1)を見れば一目瞭然だが、「失われた30年」が国家経営、なかんずくマクロ経済政策の失敗によるものであることが分かる。増税や金融引き締めのたびに、上向きになった日本経済が下降している。

図1:潜在成長率(出典:日本銀行、赤字のコメントは筆者による)

 平成元年(1989年)をピークに0~1%近辺を這いつくばっているのだ。同年は第二法人税とも言える消費税がスタート。一般物価はさほど上がってないのに地価や株価が異常だとして日銀が利上げを開始し、1年で短期金利は6%に達した。日本は絵に描いたようなバブル崩壊に見舞われる。日本型資本主義も崩れた。潜在成長率の中で資本投入が極端に減っていったのだ。

 当時の法人企業統計によれば資本・負債比率は2:8。少ない資本で高レバレッジを効かせられたのは、資産の中に土地や持ち合い株式の含み益があったからだ。長引く低迷経済の中で企業は資本(内部留保)の蓄積に走る。2024年度末で673兆円、自己資本比率は金融・保険を除く全産業で45%となっている。

 日本の成長を取り戻すアベノミクスは、異次元金融緩和で企業と家計のデフレマインド転換し、投資促進を計った。しかし、二度にわたる消費増税とコロナで未完成に終わる。

 サナエノミクスは日銀の利上げを容認しつつ、「責任ある積極財政」で国家が支援する17の成長投資分野を明示した。国家主導資本主義で企業が目一杯貯め込んだ資本を投資に振り向ける作戦だ。