連立政権合意書に署名する自民党の高市総裁(右)と日本維新の会の吉村代表=10月20日、国会(写真:共同通信社)
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(西田 亮介:日本大学危機管理学部教授、社会学者)

「政治家は皆嘘つき」を公言するワケ

 研究者であることに加えて、政治評論を生業の別の柱とするということは、職業として政治家や政党と向き合う機会が普段から普通の人と比べて多々あることを意味する。

 具体的には講演や研修講師、朝食会での話題提供といった場面だ。なお意見交換などは、日本の「常識」に倣って、さすがに「仕事」にはしていない。

 常日頃から、「政治家は与党も野党もなく、皆嘘つき」と普段から公言している。そうでも言っておかないと油断も隙もない。一昔前には、政治家は権力の権化か象徴とみなしたものだが、最近は「意外と政治家らしくない」とかそんな声ばかり聞こえてくる。ただ、それは選挙での当選を模索するのであれば、至極当然で、政治家にはそう取り繕うだけの十分な合理性がある。そのことを忘れないようにしたい。

 筆者が直近で記憶に新しいのは日本維新の会の吉村洋文代表と、自民党との「連立」合意直前、在阪局の番組で共演した時のことだ。

 その際、議員定数削減をめぐり、「法案提出」ではなく「成立」が連立参加の条件なのかと質問してみたことがあった。すると、吉村代表は「定数削減は臨時国会で可決」と明言した。

 10月16日のテレビ朝日「報道ステーション」でも、吉村氏は「国会議員の定数の大幅削減、これを秋の臨時国会でやるべきだ。そこは譲らない」と述べ、翌17日の同局「モーニングショー」などでも「できなければ連立は組まない」「次の臨時国会でやりきる」などと語ったと報じられている。衆議院定数の約1割にあたる50人程度の削減を、この臨時国会でやり切ると各所で明言してきた格好だ。

 ところが実際には、2025年10月20日に署名された自民党と日本維新の会の連立政権合意書によれば、衆院議員定数削減について「1割を目標に削減するため、臨時国会に議員立法案を提出し、成立を目指す」と記されている。

「成立させる」ではなく「成立を目指す」。

 この差は永田町文法でいえば決定的な違いなのである。後者の「目指す」は、「いつの日にか」という付言を含意していると解釈して構わないと見なされてきたからだ。

◎「自由民主党・日本維新の会 連立合意書 

 そして11月21日には、自民党と維新両党の実務者協議が開かれた。そこでは定数削減の方向性では一致したものの、具体的な削減数や小選挙区・比例代表のいずれを減らすかは今後の与野党協議に委ね、「法施行後1年以内に結論を得る」という形で事実上の先送りとなっている。

 維新側は実効性を担保するため、1年以内に結論が出なければ自動的に比例を50議席削減する規定を盛り込むよう主張したが、自民党は回答を保留したようだ。

衆議院「45議席以上」削減、自民党と日本維新の会が合意…法施行から1年以内に結論出す考え : 読売新聞オンライン  

国会内で開かれた衆院議員定数削減に向けた自民党と日本維新の会の初協議(写真:共同通信社)

 だとすれば、決着は2026年以降だということになる。前述のような、テレビをはじめ各所で「臨時国会で成立」と「明言」してきた内容と、実際の合意や協議結果との間には相当の乖離があることがわかる。